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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

政局とも重なる、わが国のケータイ業界

2010年12月22日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 政治家が繰り広げるくだらない茶番劇や足の引っ張り合い、さらに政党内の内輪もめなどを連日の報道で目にするが、多くの国民は不愉快に感じているのではないだろうか。政党制を敷くわが国の政治の仕組みでは、個々の政治家よりも政党の存在が大きいことは致し方ないが、それでも選挙で国民に選ばれた国会議員たちであるのだから、任期中は場合によっては政党の考え方もときには折り合いをつけて団結して、国民のため、日本の将来のために議員としての職を全うすべきではなかろうか。

 こうした政治のゴタゴタの様相は、同様にケータイ業界にも重ねてみることができる。

 政党を通信キャリア、議員を端末に置き換えてみると分かりやすい。通信キャリアからすれば端末がなければサービスは提供できないし、端末自体も、通信キャリアが提供する回線契約が伴わなければ、ただの電子機器になってしまう。

 本来、ケータイ選びというのは、個々の端末の形状や機能、使いやすさなどを評価し、選択するものだと思う。これに回線契約を組み合わせるのだが、海外のようなオープンな環境であれば端末に対して自由に通信キャリアを選択すれば良いし、日本のようなSIMロックが掛けられた環境なら、端末に紐づいてくる通信キャリアを選ぶことになろう。

 一方で、通信キャリアの魅力からサービスや端末を選ぶという選択肢ももちろん考えられる。通信品質や料金、サービスなどで比較し、それらのサービスを利用するのに最適な端末をユーザーが選べば良い。

 ところが、どうもわが国では、政治にしてもケータイ業界にしても、全体的なバランスとしてキャリア側(政治でいえば政党)の力が強すぎるように感じる。どうして日本という国は、こうなってしまうのだろうか。おそらく、政治にしても通信サービスにしても、結局国民の意見がまったく反映されず、当事者(政党⇔政治家、通信キャリア⇔端末メーカー)の利害関係ばかりが優先され、国民の考えが反映されないまま事が運ばれてしまうからなのだろうか。

 そうした混沌としたケータイ業界のなかで唯一、使いやすさなどで完成度が高く、個性もある端末としてアップルのiPhoneが着実にヒットしている。その成果がついに国内端末メーカーシェアにも現れてきた。

 IDC Japanによれば、2010年第3四半期における国内ケータイ端末シェアで、アップルが5位に食い込んできた。国内市場全般として、前年同期比18.9%という順調な成長を果たしているそうだが、これもiPhoneが市場を牽引する形になっているという。

 国内端末メーカーなど、関係者はこのシェアをどのように感じているのだろうか。通信キャリア主導の護送船団方式のおかげか(通信キャリアによる端末入荷の調整など)、じつは上位4位までのメーカー各社のシェアは、各社とも10数%台と、僅差だ。アップルとの差はわずかしかない。しかも、国内メーカー各社は、1年間に複数の通信キャリア向けに何機種も商品化し、出荷している。

 一方のアップルは、1年に1機種のみで勝負をかけている。たったの1台というラインアップで、これだけのシェアまで食い込んできているのである。端末別シェアを算出すれば、当然iPhoneが1位になるだろう。いったい、日本の端末メーカーは何をやっているのかと言いたところだが、実際に端末メーカー側の話を聞けば、どのメーカーも「通信キャリアからの要望通りの端末しか作れずジレンマを感じる」という。であれば、端末メーカーが一致団結して、この日本特有な通信キャリアと端末メーカーの関係を打破すればよいと考えるのだが、そこまでやるつもりも無いらしい。こうした状況も、日本の政局にそっくりだ。

 通信キャリアと端末メーカーの安定した関係の中で、ぬるま湯に浸かってヌクヌクしているうちに、あっという間に世界の端末メーカーに国内市場もひっくり返されかねない状況にあるということを肝に銘じるべきだろう。

 国内メーカー各社もAndroidスマートフォンを本格的に出荷開始したところだし、これで海外メーカーに対して巻き返しができると考えているのかもしれないが、そんなに甘いものではない。というのは、筆者も先月から各社のAndroid端末を比較利用しているところだが、どの端末とは言わないが、国内メーカー製のスマートフォンは正直なところ興醒めなのである。従来のフィーチャーフォンからの乗り換えユーザーを意識して、妙に通信キャリア側の都合で独自のインターフェイスや機能を突っ込んだスマートフォンほど、端末に無理を感じる。

 操作感もいまいちで、フルタッチパネルでは「指で操作する」というインターフェイスである以上、指の動きに合わせた軽快な操作は必須条件であるのに、正直なところ画面の動きが指について来ない。またプリインストールされたアプリケーションでさえ強制終了を繰り返す始末だ。はじめてスマートフォンに買い替えるフィーチャーフォンからの乗り換えユーザーが、このような端末を購入し「やっぱりスマートフォンは使いにくいじゃないか」と感じてしまっては、せっかくのスマートフォンブームも台無しだ。

 ちなみに、海外メーカー各社のAndoidスマートフォンも触っているが、これらは"余計な味付け"が無いため、ストレスも無く軽快に画面操作できる。なかでも韓国メーカー各社のスマートフォンは抜きん出ているように感じた。

 結局のところ「使いやすい端末」こそが売れる端末なのだ。だからiPhoneが大ヒットしているのである。Android端末の中でも、サムスンのGALAXY Sが世界的ヒットを飛ばしているが、理由はまさにそこにある。韓国メーカーでできることが、なぜ日本の端末メーカーにできないのだろうと、日々とても残念に感じている。議員一人ひとりは努力していても、政党の壁で思うように事が運べない政局と同様に、端末メーカーも様々なジレンマを感じているのだろう。こうしたわが国のケータイ業界、どうにかならないものだろうか。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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