このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

スマートフォンと併用しやすい音声通話用端末も欲しい!

2010年12月 6日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 このところの国内におけるスマートフォン発売ラッシュなど、ケータイ業界にも明るい話題が多い。そんな中ウィルコムが、相手先の通信キャリアや固定、携帯、IP電話の種別なく(1通話10分以内、月間500回までという制約はあるが)月額980円で通話料が無料というオプションを発表した。これは多くのケータイユーザーにとって魅力的なオプションと思われるが、じつは筆者においてもジャストタイミングな話題と感じた。というのは、ちょうどメインの利用端末がスマートフォンに移行しつつある中で、今後「音声通話」をどう併用していくか考えていた矢先だったからだ。

 筆者はこれまでも複数の通信キャリアを同時に契約し、次々に発売される新機種を実際に試し、評価してきた。その中でも、iPhoneに関してはその操作性や豊富なアプリに魅力を感じ、まさに手放せないものとなっていた。さらに、このところはiPhoneのほかにNTTドコモのスマートフォン2機種、auのIS03も加え、利用性の検証を行っていたところである。こうしたスマートフォンをメイン端末として使い始めていた中で、逆に「音声通話用の端末が欲しい」という気持ちが高まっていたのだ。


筆者のケータイはこんな組み合わせ。音声通話用は2007年発売のソフトバンク708SC(手前)。決して使いやすいわけではないが、スーツの胸ポケットへの収まりの良さは、このモデルの右に出るものがない。

 各通信キャリアの戦略的には、「2台持ちのユーザーも今後は1台のスマートフォンで済む」ということを目指して、スマートフォンにおサイフケータイやワンセグなどの国内独自サービスを次々と移植しているのも事実。こうした流れにまるで水を差すような話で恐縮だが、どうもスマートフォンでは「音声通話」が使いにくいと痛感している。もともと筆者はスマートフォンに一本化できる状況でもなく、必ずスマートフォンと同時に音声通話用の端末も持ち歩いてきたのだが、とくに最近になってその欲求は高まるばかりなのである。

 ケータイは本来「電話をするための道具」であった。一方のスマートフォンは、PDA等に通信機能が備わった、いわば「パソコンから進化してきた端末」だ。なのでケータイ(フィーチャーフォン)と、スマートフォンはルーツも違うので、当然形状や操作性が違ってしかるべきなのだが、どうもスマートフォンでは音声通話がしっくりといかない。さらに移動しながらの利用では極めて使いにくい。つまり、端末によっては通話断も発生するし、音声品質も案外ひどいものが多いのだ。「音声通話」という機能に関して、チューニングが甘いと感じている。

 かつて筆者は、'90年代終わりごろから'00年代前半にかけて、各種ケータイ雑誌等に端末評価記事を執筆してきた。まさにケータイの多機能化が一気に進んだ時期に、ケータイ新機種を各所で解説してきたのである。メール機能に始まり、iモード等のインターネット接続サービス、カラーディスプレイ、アプリ搭載、カメラ機能搭載、おサイフケータイにワンセグなど、ケータイの進化の過程を目の当たりにし、それらの魅力を伝えてきたのである。しかしながら、当時から「音声通話」に関する評価もしっかりと書き記してきたつもりだった。確実に接続できるかどうか、ハンドオーバー性能、通話音質や通話時のグリップ感、さらに通話に関連する付帯機能の使いやすさ(アドレス帳や発着信履歴操作、音声メモ操作)などをきちんとチェックし、各端末を比較してきた。

 ところが、ケータイの多機能化と共に、機能ばかりに目を奪われてしまって、ケータイにとっては最も重要ではないかと思われる「音声通話」に関する評価は次第に見受けられなくなっていった。昨今のスマートフォンの解説記事に至っては通話品質の情報など全く見当たらない。先に述べたように、スマートフォンの成り立ちを考えれば、データ通信のほうが主体な端末であり、「おまけに通話もできる」と捉えるほうが正しいのだろうから、これは致し方ないところなのだろう。

 かつてウィルコムがW-SIMを開発する際に、技術的に一番苦労されていたのが「安定した音声通話の実現」だったと関係者から聴いたことがある。PHSデータカードを多数発売していたウィルコムなので、技術的にはそれらデータカードに音声通話機能を載せるだけで済みそうなものであるのに、実際には相当な開発期間を要していた。データ通信では通信が瞬間的に途切れてもユーザーに気づかれることはないが、音声通話では明らかに声が途切れたり、場合によっては回線断となるため、音声通話のクオリティを保つためには通信部分のチューニングにかなりの時間を要するのだそうだ。そう考えると、スマートフォンに安定した音声通話性能を望むのはかなりの難題なのかもしれない。

 となると、スマートフォンと音声通話用の端末の併用は今後も続いていくのだろうと感じていた矢先、ウィルコムがあまりにも魅力的な音声通話用プランを発表してきた。今後、さらに望みたいことは、スマートフォンと併用することを前提にした魅力的な「音声通話用端末」のラインアップの拡充だろう。HONEY BEEも悪くは無いが、オトナが使っても絵になる、高級音声通話用端末も出してもらいたいものだ。しかも、音声通話用に重点を置いて、余計な装備は外してもらって、極めてシンプルながらも通話へはこだわりを感じるようなモデルが欲しいところだ。ウィルコムには今後はそうした新ラインアップを期待しつつ、当面はコレクション保存庫から適当なPHSを探して、音声通話用にウィルコムを一本契約してみようと思っている。(やっぱwristomoか?!)

フィードを登録する

前の記事

次の記事

木暮祐一の「ケータイ開国論II」

プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

過去の記事

月間アーカイブ