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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

日本通信がmicroSIMの提供を開始、ところが…

2010年8月30日

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 日本通信が、SIMフリー版のiPhone 4で利用可能な、microSIMの出荷を開始した。さる8月23日に開催された記者会見にも出席してきたが、同社のMVNOサービスが新たなステージに移行していくんだという意気込みを感じられるものであった。

 現在、わが国でmicroSIMを採用している端末は、AppleのiPhone 4とiPadの2機種のみ。どちらも国内販売分はSIMロックが講じられ、ソフトバンクモバイルが販売を行っている。今回、日本通信が発売を開始したmicroSIMは、しっかりと「docomo」のロゴマークが刷られている。すなわち、日本通信にネットワークを提供するNTTドコモが発行したことが明白なmicroSIMなのだが、本家のドコモよりも先に日本通信が発売するというのが、何とも不可思議だ。

 iPad発売当初、iPadがSIMフリーで発売されることも噂されていたため、NTTドコモの山田社長は4月28日の決算発表会で、iPad用にmicroSIMの発売の意向があることを明らかにしていた。ところがiPadが発売されてみると、なんとSIMロックが講じられて発売されてきたため、このNTTドコモでのmiroSIM提供は見送られた。

 勝手な勘ぐりだが、今回発売されたmicroSIMは、iPad発売の際にNTTドコモが準備していたものを、日本通信が引き受けたという形なのだろう。NTTドコモではmicroSIM対応の端末を当分は出す予定も無いだろうし、したがって自らSIMカードのみの販売でmicroSIMを出す意味も無い。また、わが国ではSIMカード単体で購入する(契約する)という習慣が無かったが、こうした新しい契約スタイルを認知させるためのテストマーケティングを日本通信にやらせようという考えなのだろう。

 しかしながら、こうした製品を日本のマーケットで理解してもらい、受け入れてもらうためには、まだまだ時間がかかるのだろうと認識した。日本通信の記者会見では、あくまでmicroSIMを独自に発行するというのが趣旨であった。さらにこのmicroSIMがiPhone 4用にチューニング(諸設定や、対応サービスなど)されたものであること、端末自体はユーザーが用意すること、当然SIMフリーでなければ使えないので、海外から調達された端末であることなどが説明された。

 にも関わらず、この発表を受けた一般のニュース媒体を見ていると、おそらく書いている記者自体もSIMカードを十分理解していないのではないかと思えるものが散見した。当然、そのような報道を見た一般のユーザーは、ますます見当違いの理解をしているようだ。実際に私の周辺の一般的なユーザー(ちなみに大学の教職員だ)から受けた質問をピックアップしてみよう。いかに理解不足か顕著に分かる。

「ドコモがiPhoneを発売するらしいが、本当か?」

⇒今回の報道発表内容からはかけ離れている。そういうことではないのだが、ただ各社報道の「見出し」だけを追いかけてみると、確かに一般のユーザーにはそのように刷り込まれてしまうと感じた。実際に、インターネットのニュース見出しを拾ってみると「iPhone 4をドコモで使えるマイクロSIMが登場」は健全なタイトルだが、ひどいものになると「iPhone 4、ドコモで利用可能に」などというものまであった。見出しだけ見ていれば、当該の質問が出てきても何らおかしくはない。一般のユーザーの多くは、まだSIMカードそのものの理解も少ない。一般の媒体ではここをしっかり押さえるべきである。

「あのSIMカードを買えば、私のiPhone(ソフトバンクで購入)でドコモのネットワークが使える?」

⇒まだSIMカードの存在を知っているだけリテラシーは高いのだが、当然、わが国で発売されているiPhoneはソフトバンクモバイル以外のSIMカードを利用できないようにSIMロックが掛かっているので、日本通信のSIMカードを挿入しても利用できない。わが国ではSIMロックという概念の理解が残念ながら薄い。報道記事が、どこまでSIMロックの現状を理解し記事中で説明できているかが重要なのだが、今回の日本通信の報道発表をそのまま引用しているような記事では、一般の読者が「自分のiPhoneで使える!」と理解してしまっても何らおかしくは無い。

 こうした日本通信のSIMカード製品は、プリペイド契約を中心に据え、街中のコンビニ等で扱ってもらうのが理想なのではと考える。必要なときに、気軽に利用できること、しかも思い立ったときにいつでもどこでも購入できる…。そうすることで、ますますモバイルの活用が活性化していくように考えるのだが、いかがなものだろう。ただ、上記の押し問答のように、まずは日本のユーザーのSIMカードに対する理解を深めていく必要がありそうで、まだまだ道のりは険しそうだ。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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