ケータイ販売も「鎖国化」が進行か?
2010年7月20日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
WirelessWire Newsのこちらの記事によれば、わが国のケータイ販売チャネルは、併売店が急速に減少する中、キャリアショップと量販店の2分化傾向が鮮明になってきているという。
2007年の総務省「モバイルビジネス活性化プラン」を受けた各通信事業者の施策を見ていて、筆者が一番懸念していたのが、この「ケータイ販売店の統廃合の行く末」だった。販売奨励金にメスが入れられ、大きな影響を受けるのがケータイ販売店であることは実に明白だった。
とはいえ、ケータイ業界における「モバイルビジネス活性化プラン」の受け入れ方次第では、必ずしも先行きが暗いものではなかったはずだ。モバイルビジネスの多様化が目指すべきところであったのだから、販売店にとっては扱える商材も一層増え、ビジネスの拡大につなげられる余地もあっただろう。
モバイルビジネス活性化プランを受けて、2007年11月以降ケータイ端末価格が高騰したことは周知のとおりだが、通信事業者各社はここで割賦販売を取り入れた。この割賦販売には大きな落とし穴があった。現在、ケータイ販売店店頭の販売価格表示を見ていると、「お持ち帰り価格0円」という表示を多数見かける。つまり、端末代金は24回(または12回など)の割賦払いになるので、購入時の負担は0円という売り方だ。こういう売り方の最大の問題点は、店舗によって端末販売価格の「販売価格差」を付けられないことだ。オープン価格と言われながらも、実態は端末販売価格を電話料金の支払いと抱き合わせた、まるで販売価格のコントロールのようである。
かつてのケータイ端末の販売価格は、通信事業者の看板を掲げた「キャリアショップ」が比較的高価で、次いで量販店が若干安く、さらに街中の至る所にあった複数の通信事業者ブランドを扱う「併売店」がより安価にケータイを販売していた。より安価にケータイを購入したいというユーザーは併売店に足を運べば良かったし、信頼できる窓口でケアの行き届いた対応を受けながらケータイを購入したければキャリアショップに行けば良かった。
しかし、割賦販売導入後は、前述のとおり販売価格差を付けられない形になってしまったため、当然ユーザーは安心して購入できるキャリアショップに向いてしまう。その結果、併売店の淘汰が一気に進んでいってしまった。
2006年にMNP(番号ポータビリティー)がスタートした際に、各通信事業者の端末やサービスを横並びに比較して選べるという点で、併売店に足を運ぶユーザーが増えるだろうという予測もあった。しかしながら、MNPの利用は大きく伸びず、そして追い討ちをかけられるように、2007年の販売方法の見直しによって、併売店は大きな打撃を受けてしまったのである。
併売店に迫られた選択肢は、キャリアショップに昇格するか、あるいは廃業かの2つ。キャリアショップに昇格することは、決して容易なことではない。販売台数などの営業規模ももちろんのこと、それなりの資本力も求められるわけで、キャリアショップとして再スタートを切れた併売店は多くはない。さらに見方を変えれば、特定の通信事業者の販売に専念するという忠誠を誓わされるようなものである。
本来、ケータイサービスのオープン化が目指すところは、ユーザーが各通信事業者の端末やサービスを自由に選べる環境に移行していくことであろう。しかし、ケータイ販売の実情を見ていても、どうも時代と逆行し、一層の通信事業者縛りが強まっていった感が拭えないのである。少なくとも、併売店が力を持っていれば、それら店頭で各通信事業者の端末やサービスをきちんと比較し、選ぶことができたはずだ。しかし、キャリアショップでは、特定の通信事業者が提供する端末やサービスからしか選択の余地はない。もちろん、量販店で購入するという選択肢もあるが、大量販売を目指す量販店で、端末やサービスについて、果たしてどこまで詳しい説明を受け、理解した上で購入できるのだろうか。
1994年のお買い上げ制度スタート以降、わが国のケータイ加入者数は急増していき、わずか10年で1人1台に迫るところまで普及を遂げた。こうした加入者増を支えてきたのがケータイ販売店である。とくに、地域に根ざした併売店が地道な努力を続けてきた上で、積み重ねられてきた加入者実績であろうと考える。ケータイそのものが高機能化し、スマートフォンなどの取扱も増えたことで、ユーザーに対するサポート業務も重視されるようになり、その窓口になるのがキャリアショップという考え方も理解できないわけではないが、ただ街中からケータイショップの看板が次々に消えていくのは、この業界を長年に渡って眺めてきた筆者としては寂しい気持ちで一杯だ。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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