子どものメディアリテラシー教育がますます重要に
2010年5月24日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
ケータイ各社の夏モデルが一斉に発表された。筆者が記者発表会などを通じて感じた印象は、「攻め」のNTTドコモとソフトバンクモバイルに対し、auは「守り」といった様子だ。加入者数で最大シェアを誇るNTTドコモは、その体力をアピールするかのごとく、スマートフォンからシンプルなケータイまでバランスよく端末をラインアップした。一方、ソフトバンクモバイルはスマートフォンをはじめバリエーションの拡大に力を注いでいる印象だ。そしてauは、積極的に新機軸を打ち出すというよりも、従来から親しまれている機能をブラッシュアップし、いっそう使いやすく便利にしようという意図を感じる。
このうち、ソフトバンクモバイルは「Twitter」を楽しむための機能を今夏の全モデルに搭載すると発表した。確かにTwitterを通じたコミュニケーションは、これまでのメールやインターネットを通じたどのコミュニケーションとも異なる新しいコミュニケーションスタイルだ。孫正義氏いわく『見たことも会ったこともない人と脳がつながったような、コミュニケーション革命が起こっている。この感動を1人でも多くの人と分かち合いたい』と、Twitterを評価しているようだ。
とはいえ、かつてパソコン通信時代からネットを通じたコミュニケーションを自ら様々な形で実践してきた筆者としては、Twitterは良い面もある一方で、トラブルが発生する懸念も拭えない。現にTwitterにのめりすぎて、睡眠不足の大人も多いのではなかろうか。上手に自分自身をコントロールして、ネット上のコミュニケーションを楽しむぐらいの余裕が欲しいところだが、こうしたスキルを身につけるには、やはりある程度の「ネットコミュニケーション経験」の積み重ねも必要ではないかと感じる。
こうしたネットを通じたコミュニケーションは、インターネット活用が当たり前となった現代において、どこかで必ず身につけなければならないことだ。ところが、わが国ではこうした教育が十分になされていないと感じるのは筆者だけではないはずだ。とくに、小中学生を含む若年層に対して、正しいインターネットリテラシーを身につける教育は重要と考えている。
そんな中、地域に根ざして活動するとあるNPO団体が、広島県でケータイを使ったメディアリテラシー能力の育成を目的としたワークショップを開催したところ、こうした取り組みに対して反ケータイ派からの反発にあい、参加者を集めることができなかったという。このワークショップは「小さい頃からケータイ・メディアがもつ自己表現やコミュニケーションの多様な可能性を日常生活の中で子ども達自身がつかんでいく機会をつくりだすことが必要」と考え、親子で参加できるイベントとして企画された。ケータイのカメラ機能を使い、グループに分かれて戸外で撮影を行い、再び会場に戻って撮影画像を見せ合いながらディスカッションを行うものだった。
企画自体も大変楽しそうで好感が持てる。参加を希望していた親子も多かったそうだが、そういうイベントに参加すること自体が「よろしくない」というレッテルを貼られてしまい、直前になって参加辞退が相次いだ。
また、石川県では本年1月から、小中学生に防災や犯罪防止以外の目的でケータイを持たせないようにする保護者への努力義務を盛り込んだ「いしかわ子ども総合条例」が施行され、罰則こそないが、実質的に小中学生がケータイを所持すること自体が「悪いこと」とされてしまった。
この石川県においても、かつてはe-ネットキャラバンなどが「ケータイ教室」等の講習会を展開していたが、この条例が施行されてからは「ケータイ教室」の実施が激減しているという。つまり、小中学生がケータイを持たないことが基本となったのだから「教育も必要ない」と捉えられているのだという。さらに驚くことは、広島県にしても、石川県にしても、ケータイを拒絶し、ケータイ関連の教育を否定しているのは、むしろ学校関係者だと聞く。
ソフトバンクモバイルの今夏のモデルや、NTTドコモのスマートフォン「Xperia」などをみても、トレンドはTwitterなどのネットコミュニケーション機能の充実であることが伺える。その一方で、わが国の子ども向けのメディアリテラシー教育は後退をたどる一方のように感じる。そもそも、子どものケータイ利用を禁止する動きは政治的な駆け引きに端を発したものだったが、これに便乗して子どもたちのメディアリテラシー教育を怠ることは、危険の先送りでしかなく、子どもたちがますます危険にさらされるようで気が気でない。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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