中国から学ぶ日本ケータイの常識・非常識(1)〜デュアルSIM
2010年4月26日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
今後のケータイ端末の商品構成について、私は以前から「ハイエンド端末(スマートフォンを中心)とローエンド端末に二分していく」と考えており、これまで機会があればそうした考え方を講演などで解説してきた。わが国のケータイ端末は確かに高機能で素晴らしいのだが、いざインターネットやEメールを活用しようとすると、何かと制約を感じてくる。中途半端なハイエンドモデルという印象を拭えない。
少なくとも、現在ケータイの主要機能をしっかりと使いこなしているユーザー層の多くは、スマートフォンの利用に移行していくのではなかろうか。一方で、ケータイの各種機能を持て余しているユーザー層は、よりシンプルな端末(とはいえ、最小限のコンテンツ利用機能や、カメラなどは必須)を求めていくはずだ。
また、利用目的を明確にした端末(kindleのような電子ブック専用端末や、mamorinoのような防犯端末など)も多数登場してくるべきで、こうした端末を複数使用できる環境(料金面なども含め)が検討されていくべきだ。
最近はようやく、こうした考え方を後押ししてくれるようなTOPICSも見かけるようになった。やはり海外市場を知っている方々は、世界の携帯電話業界の変化に気が付き始めている。わが国ではどうしても国内のTOPICS(しかも通信事業者側が提供する情報が主体)ばかりに目が向いてしまいがちだが、関係者はもっと世界のケータイ動向にも目を向けるべきだろう。
さて、前回まで「SIMロック論争」に絡めた話題を提供してきたが、SIMロックの話から少しテーマを広げ、中国ケータイを題材にわが国の「ケータイの常識・非常識」を考えていこうと思う。
前回書かせていただいた「中国版 W33SA II」の話題は、各方面から大きな反響をいただいた。もっとこの端末について詳しく知りたいというご意見もいただけたので、今回は中国版 W33SA IIをもう少し具体的にご紹介しよう。
ところで、早速「常識・非常識」の話題になるが、このW33SA IIを日本国内で電源投入すると違法となるらしい。すなわち、わが国ではこうした無線端末を利用する場合、財団法人電気通信端末機器審査協会(JATE)の「認定」と、財団法人テレコムエンジニアリングセンター(TELEC)の「検定」が必須であり、これを受けていない(つまり国に手数料を払っていない)端末の電源を投入すると、「不法無線局」扱いとなり、なんと「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科せられるのだそうだ。
3G方式に対応し日本でも利用可能なケータイが世界で販売されているものの、そうした端末を海外で購入して日本に持ち込んで利用すると違法となってしまうのだ(国際ローミングとして、海外契約のSIMカードで利用する分には合法)。日本のケータイ流通の仕組みや国内端末メーカーを保護する目的なのか、あるいは認定・検定の手数料で総務省外郭団体を成り立たせるためなのか、色々な思惑があるのだろうが、こうしたところにも日本の閉鎖性を感じるところだ。
そのようなわけで、前回の記事では中国版 W33SA IIの電源投入画面は紹介できなかった。しかし、先週たまたま所用で香港に飛ぶ機会があったので、現地で撮影した画面写真をもとに、W33SA IIを簡単にご紹介したい。とくに今回は、今や中国の山寨機では常識となった「デュアルSIM」について考えてみた。
香港に到着し早速、私は日ごろ使っているイー・モバイルとソフトバンクモバイルのSIMカードをW33SA IIに挿入してみた。このW33SA IIはデュアルSIM端末となっており、SIMカードを2枚挿入でき、2回線を1台の端末で同時に使用することが可能である。いうまでもなくSIMロックは無いので、テレホンカード代わりに好みのSIMカードを挿入して利用できる。
香港滞在中、iPhoneとW33SA IIを常時携行したが、2回線を同時に使用できるこのデュアルSIMモデルの便利さは格別だ。「日本でも2in1などがあるじゃないか」と突っ込まれそうだが、2in1等との最大の違いは、異なる通信事業者のSIMカード(回線)を1端末で組み合わせることができる点だ。わが国の2in1等は、同じ通信事業者の回線契約ということになるし、しかもSIMカード1枚で擬似的に2回線契約を実現させている。「2回線を使い分ける」というシチュエーションを考えると、本来同じ通信事業者同士の組み合わせというのはあまり用途が広がらない。やはり、異なる通信事業者の回線契約を1台の端末で利用したいというニーズしかあり得ないだろう。
中国や香港では、こうした2つのSIMカードスロットを備えた端末をかなり見かける。実際に使うと非常に便利だ。わが国でもこうした端末があれば便利だと思うのだが、日本の携帯電話業界の構造を考えると、日本ではどう逆立ちしてもこうした機能を搭載した端末が発売されることはないだろう。仮に実現させるためには、端末メーカーが自ら通信事業者の制約を受けずに開発する必要がある。また独自の販路も必要だ。
「デュアルSIM」は、通信事業者の力が強すぎるわが国の環境では、絶対に発売されることが無い、幻の機能といえよう。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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