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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

SIMロック論争の行方は?(3)

2010年4月12日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 SIMロック解除に向けた議論はまだ各所で続いているようで、マスメディアによる企画特集も後を絶たない。ただ、私から言わせていただくと、現状の携帯電話端末やサービスを前提にして、SIMロック解除によるデメリットばかりが強調されてしまっているようで残念だ。

 確かに、現在市販されている一般の携帯電話端末をSIMロック解除したところで、何のメリットも無い。他の通信事業者のSIMカードと組み合わせて使用した場合、通信方式や周波数割当の違いを考えると、組み合わせることができる通信事業者はNTTドコモとソフトバンクモバイルの相互のみだ。KDDIは周波数帯域はNTTドコモやソフトバンクモバイルと一緒でも、通信方式が違う。イー・モバイルはNTTドコモやソフトバンクモバイルと通信方式は同じでも、周波数帯域が異なる。

 また、ソフトバンクモバイルの端末をNTTドコモのSIMカードで利用しようとしても、当然現状のソフトバンクモバイル端末はiモードには対応していないので、利用できる機能は通話とSMSぐらいだろう。こんなことではSIMロックを解除したところで何の意味も無いだろう。

 だからといって、「SIMロック解除など無意味」と総務省から出されてきた議論を切り捨ててしまうのは早計だ。

 総務省で開催されたSIMロックに関する公開ヒアリングで、端末メーカーを代表して意見を述べた情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)は、やはりSIMロック解除に慎重な対処が必要との意見に終始した。

 端末メーカーにとっても、SIMロック解除による携帯電話ビジネスモデルの変更が出てくれば、その影響は少なくない。既存の携帯電話開発は、通信事業者が示す仕様やスペックに基づき、通信事業者と協議しながら端末を開発している。そして、端末メーカーは製造した端末を一括して通信事業者に買い上げてもらっている。つまり、在庫を抱えるリスクも無いので、既存の仕組みは端末メーカーにとっては極めて安泰なビジネスモデルと言えるだろう。こうした仕組みを崩してまで、SIMフリーのオリジナル端末を、独自ルートで売ろうなどと考えるメーカーが無いのは当然とも言えるかもしれない。

 また、前述のとおり、既存の携帯電話端末を他の通信事業者に持ち込んだ場合、通信事業者の独自機能(iモード、Yahoo!ケータイ等)が使用できない。しかし、こうした問題は端末メーカーの工夫で解決できない問題でもない。各社の独自機能をすべて盛り込んだ端末を製造すれば良いからだ。ただし、こうした各社の独自機能を実装した端末を開発するには、CIAJの提出資料いわく、製造コストが増大して高価になり、さらに端末が大きくなってしまうとしている。

 端末が「大きく」なってしまうというのは、複数の通信方式や周波数帯域の対応を考慮すると、致し方ない。ここは無理せず、すべての通信方式への対応は見送っても良いだろう。一方、製造コスト増大の部分であるが、たとえばシャープなどはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、ウィルコムに端末を供給している。それぞれの通信事業者向けに専用の端末を開発しているわけだが、それもハイエンドモデル、ミドルレンジ、スマートフォンタイプなど、バリエーションの数は相当数になる。こうした端末個々の開発コストを考えれば、複数キャリア対応の共用端末を、数種類製造したほうが、むしろ開発コストが抑えられそうな気もするのだが、いかがなものだろうか。このあたりは客観的立場から専門アナリストにでも試算いただきたいところだ。

 また、CIAJの資料および説明では、仮に各通信事業者対応の共用端末を開発する場合に、各通信事業者による独自機能部分への対応で相当なコストがかかることを述べているが、今後、Androidが普及機のOSとしても浸透していくことを想定すると、iモードやEZweb、Yahoo!ケータイなどの機能は、OSにアドオンするアプリケーションとして提供していくことも不可能ではなかろう。通信事業者は、端末メーカーがAndroidなどの汎用OSを用いて、各通信事業者で共用可能な端末を開発しやすい環境を構築していくべきと考える。

 端末メーカーは現在、いかに製造コストを下げるかの工夫に勤しんでいる。製造工程において、数円どころか数十銭単位でのコスト削減に必死になっている。しかしながら、こうしたコスト削減はユーザーがより安価に購入できるようにするためのコスト削減なのかといえば、決してそうではない。通信事業者が示す買い上げ価格の範囲にいかに収めるかという苦労になってしまっている。

 実際にこんな矛盾も出てきている。端末製造における様々なコスト削減の一方で、超高解像度のカメラモジュールや、どれだけのユーザーが必要としているかわからないワンセグモジュールなどの搭載が必然になってしまっている。ユーザーのニーズと、通信事業者のニーズが乖離し始めていることを、メーカー自身も気がつき始めているのに、携帯電話業界はますます迷走していく一方だ。

 SIMロック解除が、現状の携帯電話端末、サービスにおいては意味が無いことは明白なのだが、少なくとも数年後の携帯電話業界全体の活性化を考え、迷走しつつある通信事業者主導の携帯電話端末開発に歯止めをかける役割は大きいと考える。もうしばらく、SIMロック解除議論を見守って行きたいと考える。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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