このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

福島第一原子力発電所安定冷却への提案(2)

2011年4月22日

(1)に戻る

具体的な提案

○港の一部を巨大な圧力抑制プールとして活用する

下の図(出典福島県温排水調査管理委員会報告書)を見てもらえば分かるように、冷却海水の取水口は港の中にあり、開渠の取水路がある。1-4号機の取水路開渠だけで100x420メートル程度の大きさがある、水深は5-6メートル。取水口周辺は水面から4メートル程度高くなっているので、取水路開渠の100メートル程度の入口を塞げば、最大40万トン程度のプールを作ることができる。

ここで提案したいのは、各炉心から排出される蒸気をこのプールに導き、このプール全体を第2の圧力抑制プールとして機能させることだ。そしてこのプールの水を冷却に使う。できればこのプールの水を淡水と入れ替え、淡水を循環させたいところだ。プールには蓋をして、内部の水が蒸発したり飛散したりしないようにする。

放熱は表面からの放熱だけになるので、蓋はアルミなどの熱伝導率の高い素材で作る。熱交換効率を上げるために、冷却フィンを付ける方が良いかもしれない。必要なら大型の送風機を並べて冷却する。つまり広い表面積を熱交換に利用することで、熱交換器や復水器といった複雑な機器を準備する必要を無くし、短時間で冷却能力を構築しようという提案だ。

F1.jpg

○熱量的にはこのプールだけで除熱出来る

東北大学流体科学研究所、圓山・小宮研究室のレポート「原子炉内が崩壊熱のみによって加熱されている場合に必要な水の投入量の推定」(Heat-Transfer Control Lab. Report No. 1, Ver. 4 (HTC Rep. 1.4 2011/04/13))によれば、事故発生1カ月後の4月11日段階で、1号機が毎時3.6立米(トン)、2、3号機が毎時6.4立米の冷却水の蒸発潜熱で除熱出来る。使用済み燃料プールについては、毎時1号機が0.4立米、2号機が1立米、3号機が0.9立米、4号機が4.6立米である。

詳細は同論文を確認して自分で計算して欲しいが、専門知識が無くても分かるように試算してみよう。合計すると毎時23.3立米の冷却水を蒸発させれば、全ての除熱が出来ることになる。これは1日約560立米となる。水の蒸発潜熱は532cal/g。分かりやすいようにこの100x420メートルのプールに家庭の風呂同様50センチ水を張り、この水で4基の原子炉と使用済み燃料を冷却すると、1日に約14度温度が上昇する。たとえ風呂に蓋をしていても、24時間でお湯の温度が14度下がるのは不思議でも何でも無いと思われるので、特別な設備が無しで、自然冷却だけで除熱が出来ることになる。

○何をどう構築すれば良いか

ほとんどの部分は非常に簡単である。

1)取水路開渠入口を塞ぎプールを作る

いくつか方法が考えられるが、一番早いのは重力式ダムでせき止めてしまうことだ。護岸ブロックや消波ブロックのようなものを積み重ね、間に砂利や粘土を詰めてしまう。鋼矢板などで塞ぐ方が容量が大きくなるが、大きな違いではない。

2)出来れば淡水に入れ替える

現在入っているのは海水なので、炉心の腐食等を考えると淡水に入れ替えるのが望ましい。現実的には後述する問題があるので、海水のまま使うことも検討に値する。水蒸気はこのプールで水に戻るので、塩分濃度が上がることが無いからだ。万一水蒸気として失われる分があっても、その分を淡水で補充すれば塩分濃度は上がらない。

水圧で汚染水が外部に漏れることを防ぐため、通常は水面を外部の海水面より低くすることが望ましい。建屋内部の汚染水の貯留にも使うので、最初の水深は1メートル程度の方が良いかもしれない。最終の仕切を引き潮の時に行えば、排出しなければならない海水の量を引き下げることができる。

3)各建屋とプールを配管でつなぐ

各建屋とプールの間をそれぞれ3本の配管でつなぐ。炉心の蒸気を導く配管と、炉心の水導く配管、そしてプールの水を炉心に注入するための配管の3つの配管だ。ポンプ等を必要に応じて設置する。また使用済み燃料プールからも排水のための配管と注水のための配管が必要になる。ほとんどの作業は比較的線量の低い屋外で行うことができる。

難しいのは、圧力容器と配管をつなぐところと、使用済み燃料プールとの配管だ。まず炉心の冷却を優先し、炉心状態が安定してから使用済み燃料プールに取りかかる、というやり方も検討に値するだろう。

4)プールに蓋をする

 熱伝導率の高い素材で蓋をする。水面に密着するが、浮力で水面に浮いている必要がある。一体の構造では難しい場合は、気密性の高いシートで連結し、外周も水面が上下しても気密が保たれるよう、シートで対応する。

5)建屋内の汚染水の増加に対処する

建て屋内の汚染された排水が増え続けることが考えられる。この汚染水は、主復水器の海水側に排水すれば、プールの中に排出される。建て屋内だけを通すことができるので、外部に放射能が漏れる心配は少ない。


技術的に難しい点はほとんど無いと思うがいかがだろうか。圧力容器との配管は若干の困難があろうが、これはどんな冷却系を採用する場合でも同じである。主冷却循環系から取り出すことも検討に値する。復水器内は汚染水で一杯かもしれないが、海水側に抜いてやればプール内に移動してくれるので、すぐに工事に取りかかれる。

(3)個々の問題点の検討へ

フィードを登録する

前の記事

次の記事

合原亮一の「電脳自然生活」

プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

過去の記事

月間アーカイブ