日本の農家は食料の増産に成功している?
2009年8月 4日
半年以上前のことで恐縮だが、gooニュースの「ニュース畑」に「日本の食料自給は本当に「危機」なのだろうか? 疑ってみる必要はないのでしょうか」という記事が掲載された。月刊『農業経営者』の記事によると「ニッポン農家は食料の増産に成功している」そうだ。「食料自給に関する心配は杞憂なのかもしれないと考えるようになりました」とのことだった。
ニュース畑からの孫引きだが、以下のような主張がなされているらしい。
衰退産業の代表のように扱われるが、われわれが農業を始めた一昔前と比べて、どう考えても全国的に各農家の面積、収量、収入いずれも飛躍的に向上しているはずだ。まともに農業をやっている者にとって当たり前の話だが、世の中の目は違う。多くの人は自給率半減と聞いて、生産量が半減していると勘違いしてはずだ。「ニッポン農家は食料の増産に成功している」———このシンプルな事実だけで、漠然とした不安感を払拭し、頼もしい産業であると農業への認識が改められるだろう。
根拠として挙げられているのは以下のような数字である。
■日本の農産物生産量
年 自給率 生産量
1960年 79% 5100万t
2005年 40% 5500万t■農業者一人当り生産量
1960年 4.3t
2006年 26t
本当なら大変結構なことなのだが、日本の食料自給率の低さはよく知られている。食料問題は一応専門ということもあって、この主張を聞き流すわけにもいかないので、基本的な事実関係を検証してみた。
まずは「農産物生産量」。確かに生産量は10%弱増えているが、同じ期間に日本の人口は約9430万人から約1億2770万人と35%も増えている。一人当たりの生産量は20%減っていることになる。自給率がそれ以上に減っているのは、食の高度化が進み、肉や酒など原材料により多くの農産物を使用するものの消費が増えていることが大きいと思われるが、重量で比較している点も要検討だ。
次は「農業者一人当り生産量」。6倍以上という大変素晴らしい伸びである。しかし同じ期間に農業就業人口は1/4以下に減っているし、平均収量も水稲の場合でほぼ同期間に1.5倍近くに増えている。つまり農業者一人当たり4倍の農地を耕作できるようになった上に、土地生産性が1.5倍になっているので、農業者一人当たり生産量が6倍になっていても不思議でもなんでもないのである。幸い農業技術の進歩で水稲の場合労働生産性も4倍に増加している
本来なら総農業生産も50%増加するはずなのだが、8%しか増えていない。つまり耕作放棄地の増加や米の減反などの影響が出ているわけで、これまでの数字からは農業生産が減少基調にあることは否定できない。
もうひとつの問題として、引用した記事では生産量を重量で比較している。根拠になった統計を細かく見て行かないと正確なことは言えないが、重量で生産量を量るのはあまり正しくない。例えば米を減反してジャガイモを作ったとしよう。10アールあたりの収量は米なら現在約500キロだが、ジャガイモなら2000キロぐらいになる。昭和35年時点の米と比較すると、重量だけ見れば面積あたり約6倍の増収になったことになる。
しかしジャガイモの方が水分が多く、重量あたりのカロリーは米の約20%しかない。カロリーで見ると1/5に減ってしまう。同様に穀物の生産から牛乳の生産に切り替わった場合も重量は増えてもカロリーは減ってしまう。重量とカロリー量は必ずしも比例しないわけで、生産重量だけ見ていては食料自給率は語れないわけだ。
今回はここまでにしておくが、食料の供給が改善されている証拠は無いことは理解してもらえたと思う。日本の食料自給について、これまで僕は悲観的な見方をして来た。実際色々な統計を見ると、ため息が出てくる。しかし最近、必ずしも悲観ばかりしなくても良いのではないかと思う主張に出会った。それについては改めて議論してみたいと思う。
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