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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

食料を自分で作る理由(2)

2008年6月13日

農業をやっている目的は実は沢山ある。自分の子供にちゃんとしたものを食べさせたいという思いがあるのは確かだが、今後の食料生産をどうするべきか、実体験の中から展望したいというのが最大の理由だ。今後の変動はあるにせよ、今すぐに職業として成立させるのは明らかに難しい。農業自体の環境負荷も大きい。こうした状況を変えていく可能性を多角的に検討したいと思っている。そのためには一定の規模の実験が必要なので、農業と言える規模を目指している。

突如具体的になるが、わが家の農業の現状を簡単に説明してみよう。現在のところ、「ちゃんとした」兼業農家を目指して悪戦苦闘中だ。経営規模的には田んぼが1反5畝以上、畑が多分4反強あり、農家と言える規模ではあるのだが、手が回らず耕作放棄状態の田畑が一部ある。主要な原因は仕事が忙しすぎる点にあるので、あとは思い切りの問題ではある。

新参者に貸してもらえるのは、耕作放棄直前の農地なので、条件が悪く、谷間の日当りの悪いところとか、山奥とか、水路の水が直接流れ込んでしまいいつも沼状態の田んぼなどの農地が多くなる。ただこうした場所にも良いところがある。それは、草を生やしていても怒られない可能性が高くなるということだ。

草を生やすのは、時間がなくて結果的に荒れてしまったからだけではない。農業をやっている大きな理由の1つが、草とのつきあい方の研究だからだ。実は農地は荒野よりも炭素固定力が低い。ほとんどの農地は作物以外は土がむき出しだ。土が見えている場所では光合成、つまり炭素の固定は行われておらず、環境に良くない影響を与えている。次に、むき出しの土は、紫外線や雨や風に直接さらされ、表土を失って行く。

表土1センチが形成されるには100年かかると言われている。失われた表土を補うには、大量の腐葉土や堆肥を投入する必要がある。つまり、農業の持続性が下がってしまうのだ。その貴重な表土を失わないためには、地表を草で覆うのが一番だ。ではどうして農家の畑は皆草一本生えていないのだろうか。それは現在の経済システムではエネルギーや資源をつぎ込む方が楽で儲かるからだ。

というわけで、草をできるだけ生やす農業を、もう10年も試行錯誤しているのだが、残念ながら現在までのところ惨敗続きだ。草の状態は天候、つまり気温や雨量、日照量で変わる。その影響が作物に悪影響を与える前に対策を打たねばならない。だから、草を維持しながら収穫を得るには、管理密度を上げる必要がある。5反というのは農業的にはたいした面積では無いが、草刈面積としては広大だ。さらに忙しくて機動的な対応ができない。結果、草だけ育てて収量が皆無という経験を繰り返している。

なんと言っても雑草は、その土地その年の気候に一番適したものが生き残るわけで、人間に植え付けられた作物より丈夫で成長が早いのは当然のこと。あっという間に作物が雑草に覆われてしまうのは避けがたいことなのだ。そこに人間の管理を介入させることで、作物の生長を妨げないギリギリの線で雑草を育てようとしているわけで、管理密度を高くし、かつ機動的に人海戦術で労働力を投入する必要があるわけだ。現在の機械力があれば、全部退治してしまう方がよっぽど簡単だ

雑草というか、カバープランツの植生を制御することで労力を節約できる可能性は残されているが、管理密度を下げることはできない。また、雑草はその土地に最適化したものが育つので、炭素固定力が最大になることが期待できる。だからギリギリカバーしてくれるカバープランツでは今ひとつだ。それだけでなく、実は雑草に植生を任せること自体が、一種の農地の管理になっている。

どういうことかというと、その土地に育つ雑草は、その土地に不足する成分を合成できたり、土地の深いところから吸い上げる能力があるから優勢になるということだ。そしてその雑草が枯れると、植物体を構成していたそれらの物質は表土に還って行く。翌年からは、より多くの品種が育つことができるようになるというわけだ。実際同じ畑でも、雑草の植生は徐々に移り変わって行く。

しかし残念ながら、最近ますます忙しくなっているので、やむなく手がかからない方向にシフトしつつある。つまり、機械力を大量に投入し、早めに草を退治するというやり方だ。わが家にはテストした草刈のための道具や機械が大量にあり、さらに最近は体力の限界を感じていることもあって、作業用の機械も増え、大変な機械化貧乏状態だ。だから草退治の道具はそろっているのだ。

それでもできるだけ草を退治せず、一度土が緑に覆われてから機械を入れてはいるし、何らかの方法で土壌を覆って表土の損失を防いではいる。主要な問題は、充分時間をかけることができたことがないので、どの程度の管理が最適か、なかなか見えてこないことだ。でも昨年から父が畑を手伝ってくれるようになり、状況が変わりつつある。1反5畝ほどの畑を見てくれているが、これまでの雑草に埋まった畑より、明らかに収量が増えている。高齢の素人でも、かなりの管理が可能ということだ。道具の工夫などで洗練して行けば、より小さな労力で管理できるようになるはずだ。

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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