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合原亮一の「電脳自然生活」

環境問題から生き方まで、地球ととことん付き合う方法論を模索する。

食料を自分で作る理由(1)

2008年5月19日

電脳自然生活を紹介をすると書きながら、あっという間に2ヵ月経ってしまった。面目ない。4月に新しいビジネスの立ち上げがあり、3月から4月は猛烈に忙しかった。僕が暮らしている地方で農業が本格化するのはの4月の初めで、ピークは5月。何で突然農業の話をしているかというと、4月のビジネス立ち上げ後もブログの更新ができなかった言い訳。ついでなので農業を始めたきっかけを紹介しよう。

この土地では、5月に入ってから農業をはじめたのではその年の半分は手遅れ。春の野菜はもちろんのこと、米もジャガイモも夏野菜も厳しい。豆類は間に合うが、枝豆やトウモロコシが収穫できるのが9月後半。今年は仕事の都合でそういった事態でもやむを得ないと思っていたのだが、4月下旬に手が空き始めた。ひょっとすると間に合うかもしれない、という考えが頭をよぎり、この1ヵ月ほど無理矢理時間を作って田畑に出ていたのだった。

特にこの週末は、壊れてしまった主力の農業機械のピンチヒッターとして、急遽ヤフオクで購入したおんぼろ機械を整備して作業し、早朝から真っ暗になるまで田畑にいたので、気を失うほど疲れた。おかげで一番重視している米とジャガイモに目処が付いた。お待たせしました。

なぜ農業にこだわっているのかというと、僕にとっての根っこは2つある。1つは現代社会の都市生活が、必ずしも個々の人にとって幸せではないのではないかという疑問。もう1つは環境問題だ。1つめはちょっと複雑な話になってしまうので、今日は2番目の環境問題と食料問題の関係を説明してみたいと思う。

そもそも電脳自然生活を指向するようになったきっかけは、環境問題だった。80年代後半に、地球環境問題が話題になり始めた頃は、公害問題とどこが違うのか良くわからなかった。1988年にやっと深刻な問題と気付いて調べ始めたのだが、日本語の文献がほとんどなかった。「とにかく大変だ」みたいなものばかりで、環境問題の本質に迫っていそうな文献は海外のものしかなかった。困ったことに英語はろくに読めない。仕方なく海外に引っ越して、英語と環境問題の勉強を始めたのが1990年だった。

何とか英語がかじれそうになってきたので、アメリカの大学で環境問題の研究を始めた。環境サミットが開催されたりしたものの、まだまだまとまった研究が出てくる段階では無く、アメリカの大学でもちゃんとした環境問題のコースを設置したところはまだなかった。仕方がないので総当たり的に学術論文を読み、「環境問題は人口問題」という僕なりのフレームワークが固まり始める。

つまり、人類の活動総量が地球生態系のホメオスタシスの範囲を超えてしまったことが環境問題の本質であり、問題は一人当たりの環境インパクト増と人口増の積になる、というフレームワークだ。問題はどの要素がよりインパクトが大きく、人類に返ってくるインパクトが大きい要素は何かということになる。ちょうどその頃、レスター・ブラウンの『だれが中国を養うのか?』が出版されたこともあり、環境問題により人類に危機が発生するとすれば、それは食料問題という形かもしれない、という予測を立てた。

環境問題が、本当に食料問題の形で人類の足を引っ張る危険があるかを検討するには、未来予測が必要になる。長期予測をちょっとでもかじったことがある人は、予測というものがほとんど当てにならないことをご存知だと思うが、人類はシナリオによるシミュレーション以上の予測方法を持っていないので、やむなく自分で地球全体の食料生産力を計算するシミュレーションモデルを書いた。

これまた残念なことに、人類は貨幣以外の標準化された物差しを持っていないので、定量分析の手法としては計量経済学を採用し、食料生産力に影響を与えそうな要素を特定しようとした。技術革新や経済成長といったファクターは抽象的な形で外挿するしかないし、そもそもベースに使った食料生産力(カロリーベース)が10年間の単位面積あたり生産力の変化を使った関数なので、50年とかの予測には無理があるのだが、地球全体の有為なデータが取れるのは比較的最近しかないので、やむを得ない。

詳しい関心がある方には、論文そのものを見ていただくことにして、結論だけ言うと技術革新が予想以上に進んでも一人当たり生産カロリーは減る傾向があり、人口抑制以外に食料問題を解決することは難しいこと、食料生産の最大の制約要件は水であること、などがわかった。ただ、世界的な水の利用可能量の統計はほとんどなく、データ自体の信頼性はあまり高くない。ただ、その後国連が世界的な水の調査に着手したことを見ても、水の重要性は裏付けられている。

僕にとっての主要な関心は、温暖化をはじめとする人類活動の影響が、日本の食料生産力にどのような影響を与えるかだった。モデル計算の結果では、日本の場合は人口増も止まり始めているし、もともと水の豊富な国。技術力もあるので、気候変動などによる食料生産力の低下は起こりにくいと言える。ただ問題は、日本が自給している食料が少なすぎることだ。

日本の食料自給率はカロリーベースで39%(2006年度)。この数字が長期的に維持できるだけでは、日本の食料が安心とは言えない。最近各国で食料価格の上昇が問題になっているが、他国で食料不足が起きれば、日本への輸出が影響を受けてしまう。つまり、環境問題の結果世界の食料生産力が向上しない限り、日本の食料も危ないことになる。うーん。食料問題は日本でも発生しそうだ。というわけで今の生活に結びつくわけだが、詳しくは追って。

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プロフィール

川崎重工業人事部・川重米国本社CFOを経てガリレオに参加。ガリレオの業務の傍ら、環境問題、食糧問題に関心を持ち、「電脳自然生活」を目指して有機農業で米、野菜を作る。

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