ゴミが生むエネルギーに未来を変える可能性はあるか
2008年7月 6日
先日のワイアードビジョンのゴミ発電プラントの記事残飯や廃プラスチックなどを使う小型「ゴミ発電機」、米軍基地で稼働中を読んで、「ついに実用化されたか」と感慨深い思いをしたのは僕だけだろうか。
Photo credit: U.S. Army
実は以前、官庁関連で未来志向の提案を依頼されたときに、「独立型エネルギー供給ユニット」なるものを考えたことがある。人が生活するためのライフラインとして必要なのは水とエネルギーと食料であり、処理すべき排出物はゴミとし尿だ。食料生産は農業に頼るとして、収穫残さやゴミ、し尿などからエネルギーを生み出し、残ったものは肥料として畑に返すことができるものにする。水は天然の水を高度処理する。
つまり、食料を栽培または採取する副産物と排出物で、必要なエネルギーをまかなうことが出来れば、環境自立型の生活が可能になる。系の安定性や輸送コストの問題を解決するために、分散型で、つまり各家庭で入出力を均衡させることが出来ないか、という思考実験だった。そう、この『Tactical Garbage to Energy Refinery』(TGER、戦術的廃棄物利用エネルギー精製装置)は、僕が構想した「独立型エネルギー供給ユニット」の機能を半分ぐらい実現しているのだ。
特に関心を持ったのが、このTGERでは、主に調理残さや残飯と思われる含水率の高いゴミをアルコール発酵によって処理していることだ。ここでは技術的詳細に立ち入ることはしないが、含水率の高いゴミの処理には、通常含水率を下げるために取り出す以上のエネルギーが投入されることが多い。嫌気性菌による処理は時間がかかるし、処理過程で大量の温暖化ガスの放出も避けたい。この辺りの課題をどういう方法で、どこまで解決できているか知りたいところだ。
細かい点では、可燃物に対してもガス化プロセスを経て発電していることや、糖分やでんぷん以外の高含水量のゴミをどう処理しているかも気になる。アルコールを作っているのはエンジンが高温になりすぎることを防ぐためらしい。一般に発電と給湯のバランスを取るのが難しいことが、自家発電システムの効率向上を妨げて来た。アルコールの生産量が比較的多ければ、より電力が必要なときは燃料電池で発電することで効率が上げられる可能性もある。今後も続報に期待したい。
環境問題は人類が環境に与えるインパクトの結果なので、この入出力を均衡させれば、持続可能な未来が見えてくる。問題は現在の我々の生活が複雑になり過ぎ、自分自身の生活の収支が見えなくなっていることだ。環境との関わりを可視化するためにも、システム全体の安定性を高めるためにも、重要なポイントは分散型であることだ。軍用ということで、コストを度外視している部分があるのだろうが、このTGERはまさに自立型、分散型にかなり近づいている。標準的なコンテナの大きなので、トラックに積んでどこにでも持って行けるのだ。
実際かって田舎では、大豆を収穫した後に残る豆柄(大豆の茎葉)や、籾殻から作った炭などを燃料として利用して来た。里山の木は、燃料であり上質の肥料である枯れ葉の供給源だった。現代の便利な生活とは遠く離れた生活に見えるかもしれないが、環境問題が人類に突きつけているのは、最新の技術を駆使して、かっての生活の物質バランスを取り戻しつつ、楽しめる生活レベルを維持して行くことではないだろうか。
10日ほど前に開始するはずだった本ブログだが、諸般の事情でずれ込んでしまった。その頃気になった記事がいくつかあり、古い記事なので忘れようかと思ったが、ワイアードビジョンには技術的関心を持たせる記事が多く、割愛しきれなかったものから書いて行くことにした。多忙な日常を送っているため不定期になると思うが、小さな議論でも提起できればと思っている。
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