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藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」

新鋭のプログラマーが、現代ポートフォリオ理論をhackすることで、経済的自立の構築を模索する。

第1回 経済的な自立を指向するために

2007年10月19日

日本では、長期間に渡って「預金を積立てながら定年まで働いて年金を受け取る」という企業や国家への依存が機能してきました。しかし今日では、この前提は崩れかけていて、私たちの将来に対する経済的不安感は増大し続けています。そして、この漠然とした危機感を抱えながらも、多くの方々は「では、何をどうすれば良いのか」と具体的な対処法を見つけられずに取り残されているのが現状ではないのでしょうか?

このような経済的不安感の高まりはおそらく正しくて、平均的な収入の日本人は平均的な支出で人生を終えると赤字になると予測されています(*1)。したがって今の「預金から投資へ」という流れは、この現実に呼応して表層化した結果なのでしょう。一方、ITの発達によって日々膨大に生み出されていく情報の波は、未だ資産運用に慣れていない個人投資家たちを決して合理的とはいえない投資行動(*2)へと向かわせています。

こういう時代だからこそ、私は「経済的な自立を指向するための投資戦略・戦術」が必要とされていると思うのです。


■ マネーの一般常識に欠如している視点

さて、「経済的な自立を指向するための投資戦略・戦術」を説明していく前に、まず今回はマネーの一般常識(銀行預金と証券投資)にまつわる誤解について考えていきましょう。


1. 銀行預金は元本が保証されているので安全
 銀行1行あたりにつき1,000万円までの元本が保証されている普通・定期預金は、一般的には「安全な貯蓄方法」と認識されています。 仮に、預金をd、預金期間をy、物価をpとして考えてみると、dは(税金20%を差し引かれた上で)僅かな利子がyの分だけ付いて将来に持ち越すことができるので、預金額がほとんど変わらないということからリスクは無いように感じられるかもしれません。

しかし、「金額(数値)がほとんど変わらない」イコール「損も得もしないから安全」というわけではありません。元本保証とは、物価pの不変が約束されているわけではないからです。現時点ではd = p だとしても、yが経過した後にpが2倍となってしまえば、(数値に変化が無くても)dの実質的な価値は半減してしまいます。

とはいえ日本ではデフレが続いていたので、pが利子以上に大きくなることは想像できないかもしれません。では、pを例えばガソリン価格と当てはめてみたらどうでしょうか?私が大学生だった10年前はレギュラー90円程度でしたが、昨今の原油高によって今では150円のスタンドもあります(pは約67%アップ)。
また他にも、ユーロ高によって欧州ブランド品が値上げとなりました。

このように、全財産を銀行預金にするということは「デフレが続くことに賭けているギャンブル」と考えることもできるのです。


2. 日本円を増やすために投資する
 投資は、一般的に「リスクを背負って日本円を増やすための技術(=利殖)」と考えられがちです。ここでは、給与所得をs、投資成果をfと仮定して考えてみます。

利殖手段としては株式投資が最もポピュラーですので、好景気時には給与sが増えていく傾向にあり、また投資成果fも増えていきます。反対に、不景気時には共に減少していく可能性が高いのでsとfの関係は比例しているとしましょう。

これを実際の生活に当てはめてイメージすると、好景気時にfが増大するよりも、不景気時にこそfに助けられたいと思うのではないでしょうか?つまり(企業や国家の依存を抑えた)個人の経済的自立を指向するならば、sとfの関係は反比例になる方が望ましいはずです。

しかし、投資への興味は「いかに手持ちの現金を増やすか」だけに向けられていて、sとfの関係性を考慮する視点は、一般的には欠如しているように思えます。


■ 硬直的な資産をhackして弾力性を与える

1.は、「預金におけるインフレリスク」の指摘になります。ガソリンやブランド品の値上がりを具体例として取り上げましたが、もし預金の一部分を原油やユーロの価格に連動する金融商品に差し替えていたならば、この値上がり分を補うことができた(*3)ということです。

2.は、「資産内の各セクターごとの相関性」についての検討ということになります。勤め先の好況・不況を、いちサラリーマンがコントロールすることは難しいと思いますが、資産運用は構成によって性質をある程度コントロールすることは可能です。

つまり「経済的自立を指向する」こととは、給与などで得られる日本円など「硬直的な資産」を、社会情勢に対応することができる「弾力的な資産」へと変質させていく過程のことになります。

私は経済学者でもエコノミストでもありませんが、いち個人投資家として今まで考え実行してきたことを元にして、「硬直的な資産をhackして弾力性を与えていく技術の思考」を基軸に、これからの日本で私たちがどのように生きていける(=サバイバル)のかを、投資の側面から書き進めてみたいと思います。


* * * * *
(*1)みんなの投資P21-26、藤田郁雄、ダイヤモンド社 2006
(*2)例えば、投信の銀行窓販残高によると、日本の個人投資家は高値を付けていた今年6月までは投信を大量に購入していながら、安値を付けた7月と8月には購入を控えている。また、7月の投信解約額は過去最大。これは、安く買って高く売るべき本来の投資行動から明らかに矛盾している。一因として、サブプライム問題のニュースが考えられる。
(*3)嗜好品である欧州ブランド品の値上がり自体は生活に直結しないが、日本は輸入大国であり、対円の外国為替高は食料品などの輸入品の値上がりによって、生活に打撃を与える可能性が高いと考えられる。

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プロフィール

1976年生まれ。経営者、個人投資家。ハンドルネームは「銀座人」。「市場は長期的には効率的」という持論を実証すべく、資産運用の成果をウェブサイト上に公開している。著書に『みんなの投資』(ダイヤモンド社)。