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藤倉良の「冷静に考える環境問題」

わかること、わからないこと、できること、できないこと・・環境問題を冷静に考えてみる。

環境税の話はどこに行ったのだろう

2007年11月16日

 カーボンオフセット年賀状を買った。
 1枚55円で、寄付金の5円は「地球温暖化防止を推進するプロジェクトの支援」に使われる。発行枚数は1億枚なので、全部売れれば5億円が集まる。それで排出権を購入すれば、日本の温室効果ガス削減義務量の0.2%に相当するという。
 環境保全にはお金がかかるということをわかってもらえるので、良い試みだ。はたして1億枚完売できるかどうか。
 「ちょっとした心がけ」のようなエコ意識も大切だが、環境のためにお金を払えるかどうかはもっと重要だ。熱心にゴミを分別しても、そこから再生されるリサイクル商品を価格が高いからといって敬遠してしまえば、リサイクルの輪はつながらない。

 日本は来年(2008年)から2012年までの5年間の温室効果ガス排出量の平均値を、1990年比で6%削減しないといけない。実際には2006年の排出量が6.4%上回っていて、約束が達成できるかどうか悲観的な状況にある。
 政治の世界で地球温暖化が頻繁に語られるようになった。先進国サミットも国連総会も主要議題は温暖化だ。やっとそうなった。 
 政治だけでなく、市民も企業も学校も、もちろんマスメディアも、誰もが環境を語るようになった。CMで「エコ」を耳にしない日はない。
 けれども、エコを語り、「地球によいこと」をし、「環境にやさしい」ことをしてみても、エネルギー消費は増加し続けている。
 工場はがんばって省エネに勤めた結果、2006年にはエネルギー消費に伴う二酸化炭素排出量を1990年比で5.6%減少させた。目標にあと一歩だ。 
 その一方で、運輸部門(要するに自動車)は17.0%増。市民生活は30.4%も増えている。2005年より少しだけ減少しているが、エコの意識だけでは限界がある。というより効果が見えてこない。

 人々が環境を語るなかで、さっぱり聞かれなくなった言葉がある。環境税だ。
 化石燃料に税金をかければ、エネルギー価格は上昇する。そうなれば、人々はエコに関心があろうとなかろうと、エネルギー節約に努める。
 省エネ型の家電製品が売れるようになるし、マイカーから公共交通に切り替える人も増えるだろう。化石燃料を使わないエネルギーは相対的に安価になるから、風力発電や太陽光発電の競争力が高まる。
 環境税はヨーロッパで導入されていて、その効果は実証済み。
 ガソリン1Lに対して、スウェーデンでは約11円が炭素税として、ドイツでは約7円が温暖化対策のための税として追加的に課せられている。天然ガス、電気にも同様に課税されている。その結果、スウェーデンでは二酸化炭素排出量が19%減少し、そのうちの60%は炭素税によるものと考えられている。ドイツでも税制改革によって700万tの二酸化炭素が削減されたと推定されている。
 環境省は2005年に環境税を導入しようと試みたが、政府税制調査会で「時期尚早」と退けられた。産業界が激しく抵抗している。2006年には提案すらできなかった。今年もダメなのだろう。
 2005年に行われた世論調査では、市民は地球温暖化には関心があるものの、環境税導入には反対が賛成を上回った。環境は大切。ゴミは分別する。でも、お金は払いたくない。
 世論調査では「税収が無駄に使われるかもしれないから」と回答する人が4割を超えた。しかし、環境税はどのように使われるかより、取られるということ自体に意味がある。環境税の税収をガソリンの消費拡大に使うというのは論外だが、一般財源に入れて普通に使えば良い。税負担が重くなりすぎて困る人には、他の税を減免すれば良い。補助金を増やすことも考えられる。
 価格が上昇してエネルギーを使う「痛み」が大きくなることこそが、環境税の存在価値だ。当然、企業も市民も嫌だと反対する。地球のための「苦い薬」を国民に飲んでもらうためには、政治家の強い意志が不可欠だ。そのような政治家が日本にもいることを期待したい。ヨーロッパにはいたのだから。
 市民の意識も2年前から変わってきていると思う。猫も杓子もエコなのだから。環境税もいけると考えるのは甘すぎだろうか。

 原油価格の高騰に伴って、11月からガソリンが値上げされた。20年ぶりの高価格になったそうだ。これが継続すれば、20年前と同じように省エネが進むだろう。さらに環境税を上乗せできれば、6%削減の国際公約も達成不可能ではなくなるかも知れない。

※追記(2007年11月18日)
 内閣府が地球温暖化対策について2007年8月にも世論調査を行っていると、知人からご指摘を受けた。環境税について「賛成」と「どちらかというと賛成」の合計が40.1%になり「反対」と「どちらかというと反対」の32.0%を上回った。調査時期が猛暑の8月であったことや、今ほどガソリン代が高くなかったことを割り引いても、環境税を肯定する人が増えてきたようだ。機は熟しつつあるのではないか。
 11月17日,IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の第4次統合報告書が採択された。18日のマスメディアは比較的大きく報道している。けれども、環境税の必要性についてはあまり触れられていない。
 別の知人から,運輸部門の二酸化炭素排出量は、近年、抑制傾向にあるとのご指摘も受けた。抑制と見るか高止まりと見るかは、判断が分かれるところだが、ガソリン高の影響でバス利用者が増えているという話も聞く。ガソリン価格が現状で推移すれば、運輸部門の二酸化炭素排出量はもう少し減るかもしれない。

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プロフィール

1955年生まれ。法政大学人間環境学部教授。専門は環境国際協力。著書に『環境問題の杞憂』,訳書に『生物多様性の意味』などがある。