“音楽のDNA”を操るツール『Direct Note Access』:Q&A形式のデモ動画
2008年8月 9日
昨日のポリスの記事に続き、本家ワイアードのブログ『Listening Post』から拾ったネタ。
ドイツのCelemony社が今秋のリリースを予定しているオーディオ編集ソフトウェア向けプラグイン、『Melodyne plugin 2』に搭載される新機能『Direct Note Access』(DNA)。今年3月にリリース計画が明らかになって以来注目を集めていましたが、8月5日(現地時間)、開発者のPeter Neubacker氏が実演を交えながらQ&A形式でDirect Note Accessを解説する動画が公開されました。
動画の前に簡単に説明しておくと、MelodyneのDirect Note Access機能は、ピアノやギターといった和音楽器の演奏を録音したオーディオデータを、和音を構成する各音(ギターでいえば1弦から6弦までの各弦の音)のデータに分解し、それぞれのデータごとに音程・長さ・強弱の変更といった編集を実行できるようにする、というもの。DTMの知識があれば、和音のオーディオトラックをMIDIトラックのように編集できる、と言ったほうが話が早いですね。なお、Melodyne pluginは、『Logic Pro』『Pro Tools』『Digital Performer』といった主要な音楽制作ソフトウェアのプラグインとして動作します。(※1)
動画はパート1と2に分かれていて、合計で約14分。
簡単に前置きしたので、何をやっているのかはだいたいつかめたかと思いますが、特に注目すべきは次の2ヵ所。
・パート1の6分40秒あたりから、「システムがパッセージの和音を解析してAm(エーマイナー、イ短調)と判定した」と説明し、右側のツールボックス(※2)を示したあと、和音のスケール(音階)をマイナーからメジャーへ、さらにスパニッシュへと瞬時に変換している。
・パート2の20秒あたりから、Neubacker氏が自らギターでCコードを弾いて録音し、メニューの「separate notes」コマンドでオーディオデータを6本の弦のデータに分解している。さらにオーディオデータを再生しながら、MIDIキーボードのノブを使って全体のピッチ(音程)を変更したり、キーボードを弾いてリアルタイムにコードを変更している(※3)。
最後の質問、「Direct Note Accessで音楽的にどんなことができる?」という問いに対し、同氏は「この技術を使う状況は無限にある」と前置きしたうえで、第1にレコーディング済みトラックの補正、第2に作曲やアレンジへの活用、と答えています。
この動画を見て僕が思いついた別のアイディアは、過去のピアノやギターによる独演のレコードからオーディオデータを得て、現在のオリジナル曲のバッキングに使ったり、セッションをしたりするというもの。たとえば、グレン・グールドの完璧にコントロールされたアルペジオや、セロニアス・モンクの独特なボイシングをデータ化し、奏者の個性を保ちながらコードやテンポを変更して、思い通りのピアノパートを作成できるようになるはず。
このアイディアは、技術的に可能であっても、著作権や版権の問題をうまくクリアする必要があるでしょう。とはいえ、音楽作品に限らず、あらゆるジャンルの芸術、文化や学問もすべて、過去の成果が蓄積されたうえに成り立っているわけで、古い作品のDNAを新しい作品に組み入れ、進化させて未来へ継承することこそ、“DNA操作”の望ましいあり方ではないかと考えたのでした。
※1 日本における販売元は株式会社フックアップで、同社サイトのMelodyne PluginとDirect Note Accessの各ページにさらに詳しい説明あり。
※2 このボックスの中で「A#」の上が「H」になっているのに気づき、調べてみたら、ドイツ語の音名はB(日本語では「ロ」)の代わりにHを使うんですね。知らなかった。
※3 コードはC、Cm、Gsus4、G、Cの順に変更される。Cmに変えるところでは、キーボード上で押さえているのはC、Eb、Gの3音で、Ebについては低いほうだけ(ギターでいえば4弦の1フレット)を指定している格好だが、1オクターブ上のE音(1弦の開放)も自動的に追従して半音下がっている。おそらく、3声で和音を指定すれば、6音すべてをコントロールできるのだろう。また、実際のギターのノーマルチューニングでは押さえにくい、あるいは押さえることが不可能なコードも、このツールでバーチャルに、自由自在に鳴らせるというメリットも確認できる。
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