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増井俊之の「界面潮流」

「界面」=「インタフェース」。ユーザインタフェース研究の第一人者が、ユビキタス社会やインターフェース技術の動向を読み解く。

第21回 流れる情報と留まる情報

2008年3月26日

(これまでの増井俊之の「界面潮流」はこちら)

世の中の様々な情報は、いつでも参照できるストック型情報と、リアルタイムに流れてくるフロー型情報におおまかに分類することができます。最新のニュースや天気予報は重要ですが、古い情報はあまり役にたちませんからもっぱらフロー情報として扱うのが適切ですし、百科事典や辞書などはストック情報として扱うのが適切です。しかし、新しくてかつ保存が必要な重要な情報の場合、両タイプの取り扱いが必要になるので取り扱いが面倒になります。

■ストック情報とフロー情報の変換

ストック情報とフロー情報はあらゆる場面で常に変換が行なわれています。聞いた話をメモ帳に書くという行為はフロー情報のストック化ということになりますし、手帳からネタを捜してブログを書いている人はストック情報をフロー化していることになります。人間が見たり聞いたりする情報はすべてフロー的ですが、ストック型の情報蓄積装置である脳内情報に変換され、フロー的な会話情報として出力されます。

ネット上にはWebページ/メール/掲示板/Wiki/ブログなど様々なコミュニケーションシステムが存在しますが、これらはフロー的かストック的かのいずれかであることが多く、両方の特徴を備えた便利なシステムはまだ出現していないようです。掲示板やメーリングリストはフロー型のコミュニケーション手法ですから、重要な情報をストック的に利用したい場合はアーカイブやまとめサイトを併用しなければなりません。

またWebページはストック型ですから、内容に変化があったことをフロー情報として通知するためにRSSが最近よく利用されるようになってきました。手作業でまとめサイトを作るのは面倒ですし、RSSはまだまだ普及が遅れており、ネット上でフロー情報とストック情報をうまく扱う方法は大きな課題です。

■メーリングリストにおけるフローとストック

メールは普通はフロー情報を扱うのに適していますが、メーリングリストのメンバ間で情報共有をするような場合、ストック情報も扱いたくなることがあります。たとえばパーティーに関するメーリングリストでは、以下のように様々なフロー情報/ストック情報の交換/共有が必要になります。

  • パーティーの開催を伝える (フロー)
  • だいたいの場所と日時を知らせる (フロー)
  • 日時/場所の詳細を知らせる (ストック)
  • 準備の詳細を決める (ストック)
  • 参加者リストを管理する (ストック)
  • 直前に緊急連絡する (フロー)
  • 撮った写真を共有する (ストック)

普通のメーリングリストではこれらの情報がすべてメールで交換されますが、開催場所のような重要情報が古いメールに埋もれてしまったり、大量に流れる参加/不参加通知が鬱陶しかったりすることがありますから、こういった情報をストック情報として管理できるシステムが望まれます。

■QuickMLのWeb拡張

私が数年前から運営しているQuickMLというフリーのメーリングリストサービスを拡張し、フロー情報とストック情報の両方をうまく扱うことができるシステムを試作してみました。

QuickMLは、“(任意の名前)@quickml.com”というアドレスにメールを出すだけでメーリングリストを作って使えるというお手軽なメーリングリストサービスですが、今回これを拡張し、編集可能なWebページをQuickMLの各メーリングリストに併設することによってストック情報も扱えるようにしてみました。メーリングリストのメンバであれば、“http://quickml.com/(任意の名前)”というWebページに情報を書き込むことができます。

先日ヨットのセーリングに誘っていただいたのですが、sailing-20080316@quickml.comという名前のメーリングリストを作り、準備などの情報交換のためにhttp://quickml.com/sailing-20080316というWebページを活用しました。事前の準備や食事の用意などに関してはWebページを活用し、全員への連絡はメールを利用するという方法により、効率的に事前の情報交換を行なうことができました。また、撮った写真を後でアップロードして共有するのにも利用しています。

パーティーなどでは参加や準備の連絡がわずらわしいものですが、そのようなストック情報はWeb上に書き込んでもらい、全員に連絡する必要があるフロー情報だけメーリングリストに流すことによって効率的に情報共有を行なうことができました。通常であれば何十通もメールの交換が必要だったと思われますが、今回は重要なストック情報はすべてWebに記述し、「Webに情報を書いて下さい」とか「写真をアップしました」といったフロー情報だけがメーリングリストに流れたので、流れたメールは全部で10通程度でした。

セーリングに関するメーリングリストのWebページ

写真の共有

メールはSPAMなどの問題が多いため、将来的にはフロー情報とストック情報をうまく併用できる新しいコミュニケーション手段が欲しいところですが、ケータイのメールが広く普及している現在、新しいコミュニケーション手段にすぐに移行することは難しいでしょう。現状では、広く使われているメーリングリストとWebページをうまく併用することによってストック情報とフロー情報をうまく扱う方法が実用的かもしれません。

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プロフィール

1959年生まれ。ユーザインタフェース研究。POBox、QuickML、本棚.orgなどのシステムを開発。ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、Apple Inc.など勤務を経て現在慶應義塾大学教授。著書に『インターフェイスの街角』などがある。

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