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増井俊之の「界面潮流」

「界面」=「インタフェース」。ユーザインタフェース研究の第一人者が、ユビキタス社会やインターフェース技術の動向を読み解く。

第51回 縦書き主義

2011年1月17日

(これまでの増井俊之の「界面潮流」はこちら

日本語というシステムは面倒も多いですが、独自のメリットもあると考えられます。

  • 一音ずつ発音を数えやすいので俳句やしりとりのような遊びができる
  • 漢字とかなを使い分けられるので速読しやすい

また、これらに加え、

  • 縦にも横にも書くことができる

という特徴は現在の日本語表記システムの大きなメリットだと思います。

縦書きも横書きもできることは情報視覚化において有利です。縦長の領域に文字列を書きたいとき、英語などの場合は90度回転してテキストを書かなければなりませんが、日本語だと縦書きすれば問題ありません。実際、横書きの書籍でも背表紙は縦書きになっています。

下の古い案内地図では、俯瞰された地形図に対して短冊型の地名が縦に表示されているため、立体感があり、表示効率の良い視覚化が可能になっていますが、横書きの文字ではこのような表示はできません。


伊勢参宮名所図会

多くのテキストを並べて表示したい場合、日本語であれば項目を縦書きできるので、縦にも横にも項目を並べることができます。

縦書き文書

昔の書籍はすべて縦書きでしたし、現在でも理系の書籍を除くとほとんどの書籍や雑誌は縦書きです。文庫や新書はほとんどすべて縦書きですし、あらゆる漫画は縦書きです。実社会でもテレビでもWebでも、実世界で目にするテキストのほとんどが横書きになっているのに対し、出版系のテキストにおける縦書き比率はかなり特異的といえるでしょう。

このためか日本人の脳には「縦書き = 読書」という印象が形成されているようで、テキストを縦書きにするだけで「書籍感」が強まる気がします。私は普段は横書きしか読み書きしないのですが、小説やビジネス書を読むときは縦書きでないと読んだ気がしないのが不思議です。少なくとも現在の日本で電子書籍を流行させるには、書籍感を出すために、現在の書籍に近い縦書きをサポートすることが必須だと思われます。

シャープは以前から縦書きの電子書籍に積極的で、「XMDF」というフォーマットの標準化を推進しています。シャープは10年以上前から同社のPDAであるZaurus上でXMDF形式の縦書き文書を読むための「ブンコビューア」というソフトを提供し、オンラインストア「Space Town」でコンテンツを販売しています。また2010年12月に発売された電子書籍端末「GALAPAGOS」では、これらの既存のコンテンツに加え、GALAPAGOS専用に提供される縦書き書籍を読むことができます。

このように一部では縦書き電子書籍が利用されているものの、普及はまだ進んでいませんし、XMDFを利用できる携帯端末は限られています。

海外の電子書籍ではePubというフォーマットがよく利用されています。縦書きに対応するePub規格が近々標準化される見込みではありますが、現在はまだ縦書きに対応していないため、国外の電子書籍製品で縦書きをサポートしているものはありません。

パソコンやPDAのあらゆるブラウザやエディタで横書き文書を利用できることに比べると、縦書き文書の扱いは非常に遅れているといえるでしょう。

縦書きで読むのに適した文章を書いたとしても、テキストを縦書きで読めるソフトを持っている人は少ないので、確実に縦書きで読んでもらうためには、テキストを縦書きレイアウトしたPDFや画像を利用するか、縦書き表示を行なうアプリケーションと一緒に配布する必要があります。

このようなアプリケーションを作成するソフトウェアが販売されていますが、高価格であったり個人向けに販売されていなかったりするため手軽に利用することが難しい状況です。

ブラウザ上での縦書き支援

普通のブラウザ上で縦書き文書を表示する「涅槃」というJavaScriptライブラリが縦書き文庫で公開されています。涅槃を利用すると、以下のようなHTMLテキストをブラウザ上で縦書き表示することができます。

<div class="lp-vertical lp-width-320 lp-height-480 lp-font-size-16">
<h1>「涅槃」による縦書き表示</h1>
 <b>涅槃</b>というシステムを使うことにより、普通のブラウザで縦書きテキストを表示させることができます。
 電子書籍専用のePubやXMDFのような機能はありませんが、とりあえずテキストを縦書き表示するのに便利です。
</div>


涅槃による縦書き表示

ブラウザで縦書きが表示できれば、PhoneGapのようなシステムを利用してこれをiPhoneやAndroidのアプリケーションに変換することが可能であり、電子書籍アプリケーションとして配布することができるはずです。電子書籍アプリケーションを気軽に作成できるシステムが登場するまでは、このような方法を使ってみると良いかもしれません。

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プロフィール

1959年生まれ。ユーザインタフェース研究。POBox、QuickML、本棚.orgなどのシステムを開発。ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、Apple Inc.など勤務を経て現在慶應義塾大学教授。著書に『インターフェイスの街角』などがある。

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