第2回 自分コンテンツの楽しみ
2007年7月 6日
Webブラウジングとかネットサーフィンとかいうのは他人のコンテンツを見るから楽しいものであって、よほどのナルシストでもないかぎり、自分の書いた文章や自分が撮った写真だけ見て楽しんでいる人はあまりいないと思われます。一方、自分が撮った写真でも、昔の写真を久しぶりに見るのは楽しいものですし、書いたことを忘れてしまったメールを何かの拍子に見つけてなつかしく思うこともあります。忘れかけた様々な思い出を拾い出してまとめて表示したり、コメントをつけて編集したりできるようにすると、自分コンテンツを意外なほど楽しむことができるようになります。
写真の整理
自分の写真を整理するとき、マメな人なら内容や時間をもとにして「2002/5/3 BBQ」とか「白駒池ハイキング」とかいう名前で管理している人は多いでしょう。「2002/5/3 BBQ」を書いてある写真は確かに2002年5月3日のバーベキューの写真でしょうし、「白駒池ハイキング」と書いてある写真は確かに白駒池でのハイキングの写真に違いありませんが、これだと当たり前すぎて面白くありませんし、このようなキーワードだけでは検索に役立つとはいえません。
バーベキューをした場所やメンバについては忘れにくいものですが、バーベキューの日付や年度をずっと覚えているものではありません。あらゆる写真に対して完璧に日付/人間/場所などのタグをつけておけば大丈夫ですから、写真をタグで管理するシステムがいろいろ提案されていますが、毎日沢山撮る写真に対してそんな面倒なことを行なうのはほとんど不可能です。
FlickrやPicasa Webのような写真共有サービスではアップロードした写真にタグや位置などを登録できるようになっていますが、毎日撮る写真をこまめにアップロードしてタグをつけたり位置を登録したりするのは大変な手間ですし、それですごく便利なことがあるわけではありませんから、長続きするとは思われません。
自分写真ナビゲーション
私は数万枚のデジカメ写真を持っていますが、あまり手間をかけずにこれらを自分コンテンツとして楽しむことができるシステムを作って利用しています。下の図は、10年分のデジカメ写真のうち「自転車」というタグがついているものを並べたものです。意図したわけではないのですが、子供の自転車の上達過程を見て楽しむことができました。
右上の写真は夕方の海岸のようですが、日付をクリックしてみると下図のようにこの日付の写真を見ることができます。
この中に「夕日」というタグがついた写真があるのでこれをクリックすると、今度は下図のように「夕日」というタグがついた写真をリストすることができます。
あちこちで夕日の写真を撮影しているようですが、富士山が写っているものがあるので「富士山」をクリックすると、富士山の写真をリストすることができます。
鎌倉方面から撮った写真が多いようですが、それ以外の場所で撮った写真も含まれています。この写真をクリックすると下図のような編集画面になりますが、どうやら東名高速のサービスエリアで撮った富士山の写真だということがわかります。
写真編集画面では、タグと一緒に地図が表示されるようになっており、地図をドラッグするとすぐにその位置が登録されるようになっています。並んで表示された写真と地図が一致しないととても気持ちが悪いため手間をかけても修正したいという気持ちになりますし、ドラッグするだけで修正できるようになっているので、あまり意気込むことなく正しい位置を写真に登録することができます。あらゆる写真について地図を登録するのは大変ですが、位置が登録されてない写真については直前に撮った写真と同じ場所だと判断するようになっているので、同じ場所で撮った写真については位置登録は一度だけですむようになっています。
こうして登録された緯度経度をクリックすると、下図のように、この位置に近い写真が表示されるので、箱根などで撮ったいろいろな写真を楽しむことができます。
このように、写真に位置やタグを登録することによって、沢山の写真のリンクをたどりながら思い出を楽しむことができることがわかります。自転車が写っているあらゆる写真に「自転車」というタグがついているわけではありませんし、自転車というタグをつけることによって成長記録を楽しもうと意図したわけでもないのに、結果的に楽しく自分の写真をブラウジングできることが面白いといえるでしょう。写真のタグづけといえば面倒な割に検索の役にたたないという印象があるかもしれませんが、リンクをたどってブラウジングするにはとても有益です。
自転車が写っているすべての写真に「自転車」というタグがついていると、これで検索したときあまりにも沢山の写真がマッチしてしまうのでかえって困ったことになります。かえってマメにタグをつけない方が、今回の例のようにうまくいくことが多いようです。
自分コンテンツのナビゲーション
自分コンテンツは写真だけには限りません。文書でもメールでも、自分に関係したあらゆるデータは、リンクをナビゲーションして楽しむためのコンテンツになり得ます。怒りのメモやメールすべてに「激怒」というタグがついてたら激怒の歴史をふりかえることができるでしょうし、もっと有益なリンクを楽しむこともできるでしょう。
タグなどを利用したリンクは、ブラウジングするのが楽しくなるだけでなく、もちろん実際の検索にも有益です。たとえばイギリスの学会で会った誰かの情報を思い出したいときは、イギリスの緯度経度をもとにしてイギリスの写真を捜せば日付が判明しますから、その付近のメモやメールなどから簡単に情報をみつけることができるでしょう。こういう情報はいくらググっても出ないことは確実ですが、自分のリンクを活用すれば簡単にみつけることができます。
タグやリンクはいくらでも増やしていくことができますし、増やせば増やすほどリンクをたどる楽しみも増えますから、自分コンテンツの整備は老後の楽しみにぴったりといえるかもしれません。
また自分コンテンツは、自分で楽しむだけでなく、人に自慢するのにも便利です。世間で流行している趣味の多くは自慢力が重要です。たとえば楽器の演奏はそれ自体楽しいものですが、人前で披露できればさらに楽しいでしょう。車の運転はそれ自体楽しいものですが、ウデを披露できればさらに楽しいでしょう。ひとりで上手に楽器を演奏するのは大変ですが、良い素材を使えばかなり楽をすることができます。生け花や写真やカラオケのような趣味は、既存のすぐれた素材に少しだけ自前の工夫を加えて作品にすることができるので万人向けの趣味となっているのだと思われます。写真はそれだけで自慢の対象になりますが、ちょっとした手間を加えて格好良いスライドショーにして公開するとさらに自慢力が満たされますから、これからの趣味として非常に期待できると思われます。自分コンテンツの公開で自慢力が発揮できるのであれば、自分コンテンツの楽しみはますます増えていくことでしょう。
自慢力の活用については次回考えてみたいと思います。
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増井俊之の「界面潮流」
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