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佐々木俊尚の「電脳ダイバーシティ」

ITの進化が加速させるネットとリアルの融合──最先端の動向をジャーナリストが追う。

ストリートビューで見る“標準規格”としての風景

2008年11月27日

(これまでの 佐々木俊尚の「電脳ダイバーシティ」はこちら

 Navitte!というグーグルストリートビューのマッシュアップサービスを提供している株式会社shiganetの志賀雄太さんに会った。志賀さんは元GMOメディア役員で、現在は独立起業している。Navitte!というのはソーシャルマップサービスで、お気に入りのスポット(場所)やルート(経路の自動再生)に手書きメモなども加えて公開し、共有やコメントができるというものだ。

 地図上のスポットの共有は、どこまで可能だろうか。そのスポットに実際に行ったことのある人間であれば、「ああ、あの場所か」とそのスポットのリアルな感覚を理解できる。しかしインターネット上で共有できるスポットは、通常は地図上のマークでしか表示されない。だからそのスポットをリアルに知らない人にとっては、それは単なる記号でしかなく、リアル空間の肌触りは永遠に伝わってこない。

 もちろんこれまでのそのリアルの肌触りを共有するために、さまざまな試みが行われてきた。たとえば友人同士で自分の居場所を地図上に表示し、コメントを発信しあうというアプローチ。米国のLooptやNTTドコモの新サービス「地図トーク」などがそうだ。

 また最近は、GPS(全地球測位システム)対応のデジカメや携帯電話カメラを使って写真に緯度経度情報を埋め込む、ジオタグのようなテクノロジーも注目を集めている。このジオタグを使えば、そのスポットに連動した写真を共有することができる。

 そのようなアプローチが様々に行われ始めている状況の中で、ではストリートビューはどのような意味を持っているのだろうか。志賀さんはその意味を、こういう言葉で表現した。

 「平準化した第三者視点で、場所に関する恣意的ではない視覚情報を得られる」

 つまりストリートビューの写真が、そのスポットの標準規格としての光景となるという意味だ。

 これまでスポットの写真と言えば、広告写真が中心だった。ホテルや旅館、レストラン、観光協会などのウェブサイトに掲載されている写真がそうだ。だがこうした写真はプロのフォトグラファーが最も視覚的に効果のあるポイントから、最もそのスポットが美しく見られるアングル、時間帯で撮影している。おまけに写真に映り込むと不都合なもの――たとえば高級旅館のすぐ隣にある無粋なファミレスや電柱といったオブジェクトは、修正されてきれいに削除されていることもある。

 だからこうした広告写真は、その場所の風景を的確に表現しているとは言い難かった。たとえば、札幌市の名所、札幌時計台を例に挙げてみよう。ある旅行会社がウェブサイトに掲載している写真を見ると、公園の広い緑に包まれ、青い空がどこまでも広がっている素晴らしいスポットのように思える。

 しかし札幌時計台は、高知のはりまやばしや長崎のオランダ坂と並んで「日本三大がっかり観光名所」によく挙げられている。実際に行ってみるとわかるが、札幌時計台は札幌市役所の斜め向かい、大都市のオフィス街のまっただ中にあって、周囲を高層ビルで取り囲まれている。風情はあんまりない。この事実は、グーグルストリートビューを見るとあからさまに実感できる。


大きな地図で見る

 ストリートビューが実現したのは、つまりはこのようなことだ。ストリートビューは観光協会やリゾートホテルがどんなに隠そうとしても、そのスポットの実態をすべて透明にしてしまう。つまりはスポットの光景を標準化することで、ネットの最大の特徴の一つである「可視化」(トランスペアレンシー)をリアル世界にまで持ち込んでしまっているのだ。

 志賀さんは「街並みは、街並みも含めて雰囲気の悪い街、いい街もある。それも含めてウェブ民主主義として公開すべきだと思う」と話す。

 これまでリアルの風景は、その場所に行ったことのある人間と行ったことのない人間の間に、ある種のデバイドを作っていた。「自分の目で実際に見る」という以外に、標準化の方法が存在していなかったからだ。だがストリートビューは、「自分の目で実際に見る」に加えて、「ストリートビューで見る」という標準規格をひとつ付け足したことになる。

 ストリートビューはまだ未成熟だ。画像は低解像度で、リアルタイム性もない。3D化されていないし、写真の中に映り込んでいる建物や道路もオブジェクトとして扱われていない。もちろん、批判の的になっているプライバシー侵害の問題も何ら解決していない。

 しかしストリートビューは言い方を変えれば、インターネットの中に「風景」というインフラを新たにひとつ加わえたという大きなインパクトを実は内包している。この可能性をどう扱っていくのかを、ITの世界はこれから考えていかなければならない。

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プロフィール

ITジャーナリスト。1961年生まれ。毎日新聞社、月刊アスキー編集部を経てフリーに。『フラット革命』(講談社)『ブログ論壇の誕生』(文春新書)など著書多数。有料メールマガジン『佐々木俊尚のネット未来地図レポート』配信中。http://www.pressa.jp/

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