第10回 登録の時代
2007年9月14日
(これまでの増井俊之の「界面潮流」はこちら)
Web2.0的な時代になって、誰もが情報を発信したり登録したりすることが多くなってきましたが、発信や登録を行なう人の割合が多いほど情報の価値は高まります。ソーシャルブックマークは便利なものですが、URLを登録する人が多くてはじめて価値が出るものであり、誰も登録しなければ意味はありません。
あるページが面白いと感じたとき、そのページをソーシャルブックマークに登録する人の数は恐らく閲覧する人の数の1/100以下だと思われます。URLを登録するには時間と手間がかかりますし、適切なタグをつけるためには頭も使う必要があるからです。
ソーシャルブックマークに限らず、データを登録する作業は大抵の場合面倒ですから、積極的にデータを登録している人は多くありません。かな漢字変換のように日常的に利用する重要なシステムでも、マメに単語登録してる人はかなり少数派だと思われます。毎日のように使うシステムですから、よく使う単語や表現を登録しておけば便利に決まってるのですが、登録処理は面倒な気がするので、毎日苦労して切り貼りしながら入力を行なっている人も多いと思われます。
受動的に計算機を利用するような方法に比べると、クリックしたり検索したりする操作は面倒なものですが、検索対象となるデータを登録する作業は輪をかけて面倒であり、誰もが簡単に行なえるものではありません。しかしWeb2.0的な情報共有を行なうためにはデータの登録は不可欠です。誰でも簡単に情報の登録が行えるようにするためには、完全に登録を自動化するか、登録操作を非常に簡単にする必要があります。
■全てを自働登録する
面白いWebページをソーシャルブックマークに登録するのは手間ですが、自分が見たページをすべてブックマークしてしまうことにすれば登録作業を自動化することができます。そんなことをするとブックマークの数が膨大になってしまうのが心配ですが、実はひとりの人間が見るWebページの数は大したことはありません。私は最近自分がアクセスしたページのURLをすべて記録しているのですが、平均すると1日にアクセスするページは600ページ程度のものであり、掲示板やSNSとかを除くとせいぜい100個程度だということがわかりました。
最近は自分の行動をすべて記録するライフログというものが流行しつつあるようですが、とにかく何でも記録するという富豪的なアプローチは有効です。どこかに登録さえされていれば後でなんとか検索できる可能性はあります。私の場合、この記録システムのおかげで、昔見たページがみつからなくて困ることはほとんどなくなりました。
■検索と同じ操作で登録する
ひと昔前は情報検索は特殊な技術でしたが、検索エンジンの進歩のおかげで、最近は誰もが日常的に情報検索を行なうのが普通になりました。最近は何かを人に聞くとすぐ「ググれ」と言われてしまいますし、へたをすると「ググれカス」と罵倒される始末ですが、最近の検索システムの発展はめざましいものがあり、ネット上の検索が日常生活の一部となったのは確かです。検索操作に比べると登録操作はまだ面倒だと認識されているようで、ソーシャルブックマークにURLを登録しなくても罵倒されることは少ないようですが、検索と同じ程度の手間で情報が登録されるようになれば状況は変わってくるかもしれません。
下図はテキストエディタEmacsで予測型入力システムPOBoxを利用しているところですが、ここで「ソーシャルブックマーク」という単語を「scb」という読みで登録する例を示します。
POBoxは、辞書から検索した単語を選択するという操作を繰り返すことによってテキスト入力を行なうシステムです。Emacs版POBox上で「s」を入力すると、下図のように、読みが「s」で始まる単語が候補として表示されます。
「ソーシャルブックマーク」という単語は登録されていませんから、「scb」と入力すると候補は何も表示されません。
「ソーシャルブックマーク」を登録したいときは、下図のように「ソーシャルブックマーク」という単語を選択してクリップボードにコピーしておきます。
この状態で「scb」を入力すると、すでに登録されている単語に加え、クリップボード内の単語が候補として表示されます。
候補から「ソーシャルブックマーク」を選択して確定すると、「ソーシャルブックマーク」という単語が「scb」という読みで辞書に登録されるので、その後は「sc」などと入力するだけで「ソーシャルブックマーク」が候補に出るようになります。
このように、特殊な登録コマンドを利用せず、普通の検索操作を行なうだけで自動的に登録も行なわれるようにすれば、単語登録などを簡単に行なうことができるようになるでしょう。
■登録のための手間を最小にする
上の単語登録の例では、単語や読みはちゃんと指定する必要がありますから、まだ少し面倒な感じは残っているといえます。ゴチャゴチャ考えずにとにかく登録してしまう方が便利なこともあるでしょう。
デスクトップ上に表示されている画面を簡単な操作で切り出してWeb上にアップロードして登録してしまうGyazoというシステムを作ってみました。Macintoshのgyazoプログラムを起動するとカーソルが領域選択モードに変化するので、ドラッグして画面上の領域を指定するとそのデータがすぐにWeb上にアップロードされてブラウザで表示されます。
Gyazoを利用すると、現在見ている画面の一部を最小限の手間でWebにアップロードすることができますが、その手間も省きたい場合は気合いブックマークシステムのような手法で自動的にアップロードを行なうようにすれば良いかもしれません。
現在は情報を検索する方法が主に注目されていますが、Web?.0の時代には情報の登録方法も同じぐらい重要になってくるでしょう。情報を登録しないと罵倒される時代も近いかもしれません。
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増井俊之の「界面潮流」
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