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増井俊之の「界面潮流」

「界面」=「インタフェース」。ユーザインタフェース研究の第一人者が、ユビキタス社会やインターフェース技術の動向を読み解く。

第8回 秘密情報のコントロール

2007年8月17日

他人に見られると困る情報をパソコンで扱いたいことはよくあります。怪しげな動画の扱いには注意がいりますし、秘密の日記や悪口/愚痴の類も同様です。秘密の計画や帳簿、人事考課のような真面目な情報も他人に見られると困ります。

パソコン上ではこういった微妙なデータも普通のデータもファイルとして扱うのが普通ですが、秘密のファイルを扱うのは結構面倒なものです。Mac OSのようなUnixベースのシステムでは、あらゆるファイルに対してパーミッションが定義されており、他人からの読み書きを許可したり禁止したりできるようになっていますが、ひとりで使うノートパソコンなどではこのような保護はほとんど意味がありません。

また、ファイルの隠し属性を設定することによってファイルが見えないようにすることもできますが、このような設定は簡単に解除できますから本当に秘密のファイルを扱うのには適当ではありません。ファイルを真剣に隠すためには、置き場所に関して涙ぐましい努力をしたり、暗号化を行なったりする方法もありますが、置き場所やパスワードを忘れてしまったりすると大変です。

最近は、鍵のような特別の装置をUSBなどでパソコンに装着したときだけ秘密のファイルが見えるようになるシステムが販売されています。この方法であれば、秘密のファイルを扱うために秘密のコマンドやアプリケーションを利用する必要がなく、装置を持ち歩くだけでよいので便利です。

■秘密状態を明示する

置き場所を工夫する場合でも鍵などを利用する場合でも秘密のファイルを扱うのには気を遣うものですが、秘密のファイルを扱っていることが周囲の人間にわからない場合、余計なトラブルが生じる可能性があります。秘密のファイルを編集中の人のそばを通りかかると、その人は驚いてバタンとパソコンを閉じてしまうかもしれませんが、こういう事態は両者にとって気分が良いものではないでしょう。大事な秘密ファイルを編集していることがあらかじめわかっていれば、近付かないように注意することができるはずです。パソコンを使って何をしているのかが遠目にわからないという特徴は、内職には便利ですが、このような場合はトラブルの原因になる可能性もあります。

モンゴルの人々が草原でエッチなことをするときは、遠くから見えるようにをたてておいて他人が近付かないようにするのだと聞いたことがあります。日本の人々が計算機でエッチな画像を見たり秘密のファイルを編集したりするときもこの作戦が利用できそうです。傘が立ったパソコンには近付かないのが無難だと人は思うでしょうし、傘を立てている本人も緊張感が持続するでしょう。

前回紹介した気合いブックマークと同じような仕組みを使い、傘や旗などを利用して秘密状態を細かく制御するようにすれば、秘密を扱う人も周囲の人もストレスが減るでしょう。

下図は産業技術総合研究所の塚田氏が作った秘密制御システムで、傘を立てるかわりにノートパソコンのディスプレイの傾きによって秘密の具合を制御しています。この状態ではディスプレイは充分開いているので、ディスプレイには右側のような平凡な画面が表示されています。

katamuki1.jpg katamuki-desktop1.jpg

少しディスプレイを閉じ気味にすると、下図のように個人情報を示すアイコンも表示されるようになります。

katamuki2.jpg katamuki-desktop2.jpg

さらに傾けると、ファイル共有ソフトや秘密動画のアイコンが表示されます。ディスプレイの傾きによる制御は傘や旗ほど派手ではありませんが、ディスプレイを閉じ気味に仕事をしていればわざわざ覗きに来る人は少ないでしょう。

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ファイルの暗号化システムなどは現在多くのOSに搭載されていますが、現状の認証システムと同じような問題点を持っているためか、まだまだポピュラーにはなっていません。普通の生活において他人のプライバシーを気にするのと同じぐらいの感覚で自分や他人の秘密情報を尊重できるようなシステムが普及してほしいものです。

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プロフィール

1959年生まれ。ユーザインタフェース研究。POBox、QuickML、本棚.orgなどのシステムを開発。ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、Apple Inc.など勤務を経て現在慶應義塾大学教授。著書に『インターフェイスの街角』などがある。

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