このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

織田浩一の「ソーシャルメディアと広告テクノロジー」

ソーシャルメディアを軸とした次世代の広告ビジネスがどのようなテクノロジーにより進化していくのかを探る

第2フェーズを迎えるバーチャルワールド

2009年1月 7日

欧米では2006年後半から3次元バーチャルワールドを開発した「セカンドライフ」が注目を浴び、自動車メーカーのGMやIBM、スポーツメーカのアディダスなど続々と店舗やオフィスをバーチャル空間に構え、そこで彼らはプロモーションキャンペーンを大々的に展開しメデイアを賑わした。日本市場がこの波に乗り出したのは半年以上遅れた2007年7月ごろだったが、米国はちょうどその時期をピークにユーザー数は伸び悩み、閑散としたセカンドライフのバーチャルワールドから撤退する企業が出始め、人気は下降していった。

このような状況におかれた「セカンドライフ」の背後で、実は別のプラットフォーム開発会社が子供達やティーンをターゲットにしたバーチャルワールドを誕生させていた。そこでは商品の販売を目的とするためにバーチャル店舗を所有するメーカーが現れたり、TV局が放映番組をバーチャルワールド化したりするなど今までとは全く異なる動きが出てきた。実業との関連性を高めた新しいプラットフォームの出現は着実にユーザー数を増やし、それぞれが独自のサービスモデルや収益モデルを作り上げ、また、ソーシャルネットワークやWebブラウザとの親和性を高めることにより「セカンドライフ」と差別化することによりいろいろと新しい工夫が加えられた。

最近、米調査会社フォレスター社が「消費者向け商品のバーチャルワールド復活(The Revival Of Consumer Virtual Worlds)」というレポートを発行した。この報告書によると、バーチャルワールドが第2フェーズを迎えているといい、同社の推測では今後12か月の間に消費者向け商品はバーチャルワールドで弾みをつけることになるという。マーケティング・プロフェッショナルは、バーチャルワールドはこれから注目する分野であるといい、特に一般商品を取り扱っている企業で今まで足を踏み入れていなかったのであれば、より注視していくことを薦める。

また、別の調査会社ニールセン社が英国のインターネットユーザー4万人を対象にそれぞれの年齢層で人気サイトを調査したところ、12歳以下ではバーチャルワールドが上位を占めていることがわかった。スタードール(Stardoll)が12歳以下のユニークユーザの32%を占め、次いでクラブ・ペンギン(Club Penguin)が29%、ニケロディオン(Neckelodeon)が25%(特にNeopets、Nickrtopolis)という結果が発表された。

netpetz.jpg

一方、バーチャルワールドニュースでは若年層を専門とした調査会社、ダビット・リサーチ社(Dubit Research)が600人の7歳から12歳の子供たちに対してバーチャルワールドに関する調査を実施したところ、73%の子供が何らかのバーチャルワールドを利用しており、そのうちの43%がディズニー社が運営するクラブ・ペンギンに登録していたという。そして25%がハボホテルに登録していた。これはニールセンが実施した調査の結果とほぼ同じであった。Dubitの調査では広告に関する質問も含まれており、バーチャルワールドを利用していると答えた子供のうち45%が広告とスポンサーの存在を認知していたという。また、広告とスポンサーを認知していると答えた子供たちは意外にも広告に対して前向きで、70%の子供たちが5段階スケール(5が一番前向きな感情を示す)の中で、「4」と「5」を示し、バーチャルワールドを使ったブランドの存在を前向きに受け入れているという結果が出た。

Webkinz.jpg

別の、子供たちの間で人気のあるバーチャルワールドに、カナダのGanz社が運営するWebkinzがある。アメリカとカナダの子供たちの間で大ブームとなったこのサイトは欧州にも広がっている。アイディアは非常にシンプルで、店頭でGanzのぬいぐるみを購入するとそのサイトにアクセスできるシークレットコードを入手できる。そのコードを使って登録するとバーチャルワールドで自分が購入したぬいぐるみのアバターの世話をやくことができる。サイトではペットの世話をやくだけでなく、ペットのために部屋をつくってあげたり、ゲームをしたり、仮想のキャッシュを使って買い物ができたり、他のユーザーとの交流をもつこともできる。欧州で人気が出た理由の1つにカスタマーサービスの素晴らしさがあり、同社は24時間体制でサポートしているため、どのタイムゾーンに住んでいても常に対応してもらえる。しかも親には子供たちがバーチャル内で遊んでいる環境を管理できるよう対応してくれる。Ganz社はWebkinzというバーチャルワールドの環境を導入したことで、商品と子供達の関係をより深くさせ、それを通じて子供同士でコミュニテイを形成したり様々な付加価値サービスを生み出しているといえよう。

今回デジタルメディアストラテジーズ社が発行する「欧米バーチャルワールド調査報告書」は、このように多様化しているバーチャルワールド市場の現状を、16社のプラットフォームと3社のエージェンシーについてのサービスモデル、収益モデルなどわかりやすくまとめたものである。日本市場でもすでに数々のバーチャルワールドプラットフォームが生まれており、また、今回「欧米バーチャルワールド調査報告書」に掲載された複数の会社は日本・アジア市場進出を次のステップとして考えていることから、この先日本で更にバーチャルワールド市場の拡大が見込まれるので、読者にとって新しいサービスやマーケティング戦略、収益モデルを考える上で大いに参考になればと願う。

「欧米バーチャルワールド調査報告書〜多様化するバーチャルワールド」
A4 202ページ
定価:55000円
調査報告書の販売、集金、発送は、デジタル・メディア・ストラテジーズ社で行います。こちらからお申し込みください。同社よりメールにて次のステップについて連絡があります。
フィードを登録する

織田浩一の「ソーシャルメディアと広告テクノロジー」

プロフィール

織田浩一

1991年、第一企画株式会社(現アサツー ディ・ケイ)国際局に入社、海外ブランドの日本でのマーケティング戦略立案・実施を担当。その後、米シアトルに移住し、デジタル・メディア・ストラテジーズ社を設立、欧米の新広告手法・メディアテクノロジー・IT調査・コンサルティングサービス、記事執筆、講演を行っている。

過去の記事

月間アーカイブ