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西堀弥恵の「テクノロジーがもたらす快適な暮らし」

海外から発信される日常に応用可能なテクノロジーの話題を紹介。暮らしをより快適にするヒントに。

ミミズを食べ、ゴキブリを味わった男、川口友万氏(『大人の怪しい実験室』著者)に聞く(2)

2009年11月 8日

(1から続く)

川口氏の自宅の水槽の中で本能のままに生殖と共食いを繰り返すネズミたち。
ネズミにとっては何の疑問もないでしょう。

川口氏は「このネズミが創造する小世界は、自分自身を表しているとも考えられる」と言います。

結局、現実というのは、生物の命が受け継がれて地球上に存在するのみで、生命体が生まれて命尽きるまでに、その1匹1匹に何が起ころうが、時は何もなかったかのように過ぎていきますね。

本書では、爬虫類の餌になるはずだったネズミがペットとして買われ、次に彼の自宅で繁殖させられたネズミが再びこの店に持ち込まれて、当初の予定どおりヘビの餌となるシーンがあります。

「生命とは、そのようなものなのかもしれない」と川口氏。

彼は、生まれて死ぬところではなく、生きている最中に何があったかこそが重要。すなわち、彼は物事の結論を重要視していません。なるほど、本書でも、結局実験結果が出なかったものについては、それはそれで正直に「わからなかった」、と書いてあります。「わからない」ことそのものが結論なのです。

「良い、悪いは人によって違います。人間を含め、生き物は上等なものではないのではないのかもしれません。純粋だからこそ、ネズミのように殺し合いをします。だから始まりと終わりに重点を置くのではなく、途中のプロセスこそが大切なのではないか。そのプロセスが面白い物語なのであって、例えば、いかに勝つか、または、いかに苦しめられるかが重要なのだ」と。

そういえば、○×方式で受験戦争を生き抜いてきた私たちは、物事を白か黒、イエスかノーで判断しがちです。事実、それが合っているかどうかで優劣の順番を付けられてきたのですから。だから、先に結論が提示されていないと漠然とした不安に襲われます。

しかし、本書では「最も重要なのは結果ではなく、そこに行きつくためのプロセスなんだ」という川口氏の強いメッセージが感じられます。都市伝説として信じられてきたことも、一般的に、ばかばかしくて半信半疑のまま放置されていることも、川口氏が実際に検証してみることで、プロセスの重要性と、信じられてきた結果が違う場合もあることを示してくれています。

ネズミの話に戻りましょう。

最初と終わりだけを読めば、何のことはない、ヘビの餌となるネズミがペットショップに存在するだけです。でも、その間には、確かに最初のネズミが元となって繰り広げられたドラマがあります。

人生だって似ています。たとえ奇想天外な一生を送った人が亡くなったとしても、生まれたとき(最初)と臨終のとき(最後)だけを見ている人にとっては、故人の生前の姿を想像できません。

著者がネズミを殺してしまったことそのものは動物愛護の観点から正当化されるべきではないのでしょうが、この一件が、壮絶なネズミたちの一生と、最初と最後の淡々とした冷たい描写のギャップをより一層、際立たせていることは確かです。そのことを考慮すると、川口氏がネズミを殺してしまった行為に少しは説明が付くかもしれません。

爽やかで温和な雰囲気と同時に、ただならぬエネルギーを感じさせる川口氏の著書。

肩肘を張らず、笑いで脱力しつつ、大切なことに気付かされた筆者お勧めの一冊です。

緑のリボンをかけて読書好きな方へのクリスマスプレゼントに良いかもしれませんね。

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【読者プレゼント】
応募者の中から1名に本書が当たります。
氏名を明記の上、tomoman2002@yahoo.co.jp までご応募ください。
件名に「Wired Vision:大人の怪しい実験室 読者プレゼント」と明記してください。
当選者には発送先をお伺いするため、あらためて連絡が入ります。
応募の締め切り:2009年11月20日

お急ぎの方は、アマゾンでもご購入頂けるようです。

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プロフィール

NTTグループ会社の社長秘書を務めた後、ガリレオの日英翻訳に参加。子供の頃の趣味はオルゴールを分解しては組み立て直すこと。仕事で携わっている京都新聞の記事翻訳がきっかけで日本の伝統文化に興味を抱き、自らも「座禅」や「書」に傾倒する。一方、溝口恵美子氏に師事し、ニューヨークのハーレムでセッションに加わるなど、ジャズシンガーとしても勉強中。